雪乃紗衣 彩雲国物語―心は藍よりも深く

 虎林郡では謎の奇病が流行の兆しを見せ始めていた。その病は影月が育った町でもかつて流行したことがあり、当時は影月と育ての親を除いて全滅したほどの病だった。不安にさいなまれる人々の心に付け込むかのようにして急遽成長し始めた宗教団体があった。その団体は、この流行病は女性が政治に口を出し始めたからだと言う。一方、王都に到着した秀麗は、茶州を建て直すための案件を実行するため根回しに奔走する。秀麗は自らの責務を果たすことができるのか、また、影月はかつて身近な人物を根絶やしにした病に対処することができるのか・・・。
 秀麗がだいぶ官吏らしくなりました。資格、と言うか思想としては十分官吏として通用するものを持っていましたが、駆け引きや根回しなど、政治家としての活躍が目立ち始めています。今回、終盤で啖呵を切ったりするのですが、そこの部分のテンポのよさが心地良い。
 相変わらずなのは叔父の彼で、年に数回しか本気を出さないのに上層部にいられるのは実力があるからなのでしょうか。常に全力とは言わないまでもある程度継続的に実力を出してくれたほうが周囲の人間は助かります。今回は秀麗のおかげで仕事がはかどった模様。秀麗の一言に右往左往する大人たちは微笑ましいですね。
 登場人物が多すぎて次第に出番が少なくなってきている人がいます。藍楸瑛、今回出番あったかな。楸瑛と絳攸ではどちらかと言うと絳攸の方が出番が多いですね。今回も秀麗との婚礼話があったり、紅家とのつながりがある分仕方が無いのでしょうか。まあ、どちらかと言うと絳攸の方が好きなのでどんどん登場して苛められて欲しいものです。
 しかし、いくら熱意があって、医学的知識を持っているからといって刃物を持って数日の人たちに開腹されるのは嫌です。多分、次巻ではたくさんの人が開腹されるのでしょうが、手術によって亡くなる人はいないのだろうな、と予想。実際にはありえないのですが、どう来るでしょうか。症状の程度もあるでしょうが、どう頑張っても今の状態では、罹患した人の2割生き残れば上々でしょう。手術で亡くなった人がいたことをきちんと書くか、著者の覚悟の見所かもしれません。麻酔の深度も彼らの意思で扱いきれないでしょうし、それほどあっさりとは行かないはず。
 上手くいって欲しく無いわけではありません。物語の流れ上、きっとたくさんの人が助かるでしょう。ただ、ここで大勢の人が(作中で)亡くなったとしたら、亡くなった人たちは取り戻せないけれど、必要なもの(秀麗と影月が提案した案件)がより強固になると思うのです。そのために秀麗に挫折を味あわせ、乗り越えさせることができるのか、と言うのが先ほど著者に覚悟があるか、と書いた意味です。無事助かったのならそれはそれで良かったね、となるでしょうし、違った方向に話は進展するでしょう。
 この作品で最新刊までを読了したので軽くこれまでの感想をまとめます。秀麗にしろ影月にしろ、過去に辛い目にあっていますが、最近は、つまり官吏になってからは挫折感を感じていません。経験不足から来る無力感は何度も味わっているとは思いますが、更なる決意を抱くための出来事が欲しいところです。一読者なので出版される作品を楽しむのみなのですが、もし編集者だったらそう作者に提案するかな、とずうずうしくも考えるのでした。


追記
 軽く調べたら2月に新作が出版される模様。さてさて、どうきますか、楽しみです。