奥田英朗 サウスバウンド

サウス・バウンド

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 上原二郎は東京に住む小学六年生。歳の離れた姉と、二歳年下の妹の五人家族。ごく普通に小学生生活を営みたいと考えている二郎。仕事もせずにごろごろしている父親を幼い頃は普通だと思っていたが、周りと比べるとそうでもないらしい。ある日、二郎たち家族の下に身元が良くわからない青年が居候することになる。人当たりのいい彼に妹は懐き、二郎も好感を抱くが、彼がやってきた目的は・・・。
 小学生同士の対立があったり、ちょっと悪いことに憧れている小学生が中学生の悪党にカツアゲされ、どう言う風にそれを克服していくのかという第一部の前半は子供の不自由さと、子供なりに生きていく困難さが描かれていて良かったと思います。後半からは一転、元活動家である父親に関連した事件に巻き込まれていくことになりますが、豪快で、自分の中では筋が通った父親がある種の爽快感をもたらします。
 まだ無邪気な妹は二郎の側にずっといるためいろいろと描写があったのですが、不倫をしていた姉の描写が少なかったことが少し残念です。第二部からは比較的登場する機会も多かったのですが、そこでの姿が魅力的であっただけに、もう少し描写してほしかったところです。また、二郎の同級生たちが個性的で、特に大人びた小学生である向井君が面白い。何か別の作品ででも登場してもらいたいですね。
 破天荒な父親を持つ少年が、父親に翻弄されながらも世間の仕組みを知っていく様子は成長物語として面白かったのですが、子供の頃に読んだのならともかく、大人になってしまった今では純粋に楽しめない部分もありました。思想を絡めず、不条理に豪快な父親であったほうが無邪気に楽しめたと思います。まあ、ある種の寓話として読むほうが今はいいのかもしれませんね。