北森鴻 写楽・考





 民俗学の学会誌に「仮想民俗学序説」と言うレポートが掲載された。残された事象からある仮定をし、別の道筋を考えることが出来ないだろうか、と提起するこのレポートは現在の民俗学からすればあまりにも異端な内容だった。著者は式直男という名だが、大学で助手を務める内藤三國は上司である助教授、蓮丈那智以外にこのような説を思いつく人物がいたことに驚愕する。その後起きた式直男の失踪。事件の真相は明らかにされるのか・・・。
 あらすじは表題作の写楽・考のものですが、それ以外の作品も面白かったです。特に一話目の「憑依忌」では那智の三國に対する感情が窺われて良かったです。でも、これはどういった類の愛情なのかが気になるところ。どちらかと言うと年齢の離れた出来の悪い弟を温かく見守る姉のような感じでしたが、今後どうなるのでしょうか。楽しみです。
 写楽・考では冬狐堂も出てきて、謎もものすごい展開でとても楽しめました。ただ、タイトルを変更したのはなぜなのでしょうか。本のタイトルにしたかったのか、そのためにはインパクトのあるタイトルにしたかったのかはわかりませんが、原題のままにしておいてくれたほうが驚けたのではないか、と思います。ある画家の名前が出てきた時、もしかして、と言いますか、ああこうなるのかと思ってしまいました。原題だったら最後までわからなかったと思います。でも、もしかして、の時に少し脈拍が上がりました。
 民俗学を改めて勉強したことは無く、小説から得た程度の知識しかないのですがこのシリーズは民俗学についての薀蓄を述べるための小説ではなく、ミステリを構成するひとつの要素であり、それでも話を読んでいるうちになんとなく判ったような気になれるのが楽しいです。次作も楽しみ。