長谷敏司 円環少女

円環少女 (角川スニーカー文庫)

円環少女 (角川スニーカー文庫)





 無数に平行して存在する魔法を操ることが出来る世界から忌み嫌われた”地獄”と呼ばれる世界。それは、今われわれが生活している世界だった。魔法使いが発動する現象は”魔法を使えない人々”が観測することで強制的に消去されてしまう。そんな”地獄”に落とされた少女、鴉木メイゼル。メイゼルの保護者であり、「協会」からメイゼルの監視を任されている武原仁は意図的に観測による魔法消去を操作できる能力者で、”沈黙”のスロータ・デーモンと魔法使いから恐れられている。メイゼルが協会から与えられた罰は、協会の”敵”を100人倒すこと。この地獄でメイゼルは生き延びることが出来るのか。
 魔法のあり方が”索引型”と”魔力型”に大きく分かれていて、更に細分化できるという設定は面白いと思います。また、一般人が観測することで魔法が消去されると言うのも、比較的一般人を巻き込まないための設定として優れているのではないでしょうか。ちょっと都合がいいかな、と思った部分も無いわけではないのですが、だいぶ細かい部分まで考えられており、決して瑕疵となるものではありません。
 設定だけでなく、登場人物も個性的で、なぜか仁にべた惚れのメイゼルは幼いながらも女性であり、少々嗜虐性に富んだ部分がとても面白いです。仕事とプライベートで性格の違う幼馴染みや、魔獣使いの少女も面白い性格で、彼女たちと仁のやり取りも楽しめる要素のひとつです。また、脇役や敵方のキャラクタも魅力的で、この世界で戦わなければいけない理由など、その背景も丁寧に書いてあり、とても面白く読むことが出来ました。
 とても面白く読むことが出来たのですが、始めのほうは世界設定の説明にいっぱいいっぱいで、この時点で馴染めない方は作品に入り込みにくいかもしれません。それでも、ある程度把握してからは、こんな能力があるのか、と楽しめるのではないかと思います。魔法の説明として浅井ラボさんと同系統のなんちゃって科学も出てきます。科学的に説明しているようで、その大元はどこからどうやって出てきたんだ、と言う突っ込みポイントが溢れていますが、まあ、魔法なのです。現代の科学は魔法にとても近く、科学の理解が根底にあってこそ魔法が使える、というスタンスでしょうか。浅井ラボさんの世界が好きな方には合うと思うのですが、どうでしょうか。ただし、毒舌合戦はありません。
 物語は緩急があって、密度もあり、佳作でした。まだ、メイゼルが地獄に落ちてきた理由や、そのほかの登場人物の背景など、描いてほしい部分はたくさんありますので、続巻に期待ですね。