桜庭一樹 少女には向かない職業

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)





  山口県のとある島に住む、学校ではひょうきん者で通っているが、自宅に戻ると無口な大西葵。小さな漁港があり、島民の多くは何らかの形で漁業にかかわっている。母親の再婚相手である葵の父親は怪我したことをきっかけに何も仕事をしなくなり、酒びたりになる毎日。かつては優しかった義父。美しいが、葵を荷物に感じている母親。未成年である葵はじわじわと締め付けられるような閉塞感に囚われる。そんな時であった網本の娘、宮乃下静香。二人の出会いは何をもたらすのか・・・。
 「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」で悲しい少女を描いた桜庭一樹さんですが、今回も同系統の作品です。この人は思春期の少年少女を描くのが上手い作家だと思います。子供子供していた小学生の頃とは異なり、次第に大人に近づいていくことを自覚する世代。それでも、殆どの行動は大人の監視下に置かれて、大人は自由と言うけれど、それほど自由は感じておらず、むしろ閉塞感に囚われているという心情が描かれています。
 「荒野の恋」ではその世代のまっとうな恋愛を描いていて、その不器用さが微笑ましいくらいです。でも、今作では葵たちは間違った方向へ進んでしまい、戻りたいけれど戻れない。大人になった今なら簡単に戻れると言える道でも、小さな世界しか知らない子供にとっては絶望的な道のりなのかもしれません。
 ミステリ・フロンティアからの出版でしたが、ミステリではありませんでした。解くべき謎は殆どありませんでしたが、それが主眼ではないと言うことでしょう。桜庭一樹さんの描く”不幸”は親子の確執であることが多いような気がします。家族とその周辺が世界の殆どである10代前半を主人公に持ってくるとどうしてもそうなってしまうのかもしれません。桜庭さんの考える不幸とは実際にこのような形かもしれませんが、ある種の形式じみたシチュエーションであるように感じてしまうことは否めません。桜庭さんの文章を読んでいると、ところどころ、彼女自身の育ちの良さと言うか、幸せに育ったのだなあ、と感じる時がありますね。その良し悪しはさておき、小説は想像でいろいろな世界が描ける媒体なので様々な舞台を描いてほしいと思います。
 作品自体は「砂糖菓子〜」と重なるような気がする部分があるにしても、面白く読むことが出来ました。特に、ラストはこうだったら嫌だなあ、と思っていたラストではなく、このラストが一番だったと読了した今ならそう思えます。作戦の稚拙さなど、主人公が幼い部分に頼っているところが大きいので、今後ミステリを書かれるのでしたらもう少し上の世代が主人公だといいかな、と思いました。