[読了] 海原零 銀盤カレイドスコープ 5巻




 桜野タズサは世界有数のフィギュアスケータ。その言動からマスコミには嫌われているが、実力は確かなもので、スケートの事に関しては何も言わせない。タズサが怪我のため休養している時期、女子シングルの世界王者であるキャンドル・アカデミアが来日した。休養中のタズサと京都でであったキャンドルはタズサと意気投合する・・・。
  フィギュアスケートは日本でもそれほどメジャなスポーツではなく、どの技が困難で、演技といわれてもピンと来ないものがあります。そんな読者ですが、このシリーズでは目に浮かぶような演技の様子が描かれており、フィギュアの魅力を堪能することが出来ました。

 これまでの流れを少しだけ記しておきます。
 -1、2巻
 大会で好成績を残せなかったタズサ。記者会見ではしおらしい様子も見せず、皮肉な口調で答えるためマスコミに嫌われる羽目になる。帰国後、彼女にとり付いた幽霊のピートは、熱心なフィギュアのファンで、100日たてば成仏するという。妙齢の女性であるタズサに男性であるピートが憑依したことに、タズサは拒否反応を示し続けたものの次第に慣れてしまう。これまで乗り越えられなかった壁をタズサは乗り越えられるのか・・・。
 -3巻
 ピートとの別れを経験し、恋に臆病になるタズサにペアスケートの機会が訪れる。シングルとは異なる技術を必要とし、さすがのタズサも戸惑いを隠せない・・・。
 -4巻
 この巻での主人公はタズサの妹、ヨーコ。ノービスクラスで競技活動するヨーコだが、姉の威光を笠に着るわけではなく、むしろ実力差に苦悩する毎日。常に敗北を続けてきたライバルに姉が指導している場面に遭遇し、ヨーコは嫉妬を隠せない。それでもヨーコは努力し続けた。そして彼女が得たものは・・・。
 
 スケートの描写に加えてこの作品ではマスコミの汚さが描かれています。若干強調されていますが、相手の人格を尊重せず、劇的な見出しのみを考えたマスコミ。タズサはマスコミに対して挑発的な態度をとります。その対応が痛快で、快い。もちろんマスコミの汚さ、稚拙さを描くことは本作の主眼ではなく、フィギュアに懸ける少女たちの思いを外すわけにはいきません。
 少し長くなってしまいましたが、もう少し。この5巻では、スケートよりも名声を得ることに情熱を燃やす少女が登場します。何を目標にするか、個人個人で異なることは当たり前ですが、重要なのは、自分自身で確立した価値観を持つことだと思います。急激に変わる環境に、自分ではそうと気づかないうちに振り回され、何が自分にとって大切なのかわかっていないような印象を受けました。
 名声を求めるためスケートの練習を蔑ろにした彼女をタズサは実力でねじ伏せます。この屈辱を乗り越えて彼女が再びタズサの前にライバルとして現れる日は来るのでしょうか。次巻以降が楽しみです。 
 あまり登場する必要が無かった様に感じられるキャンドルの義兄も含めて、不自然な台詞がどんどん出てきますが、翻訳されていると思えば、まあ、大丈夫です。