[読了] 奥泉光 モーダルな事象

 麗華女子短期大学の助教授である桑潟幸一、通称桑幸は「日本近代文学者総覧」で自身のテーマである太宰について執筆することを希望し、文学界の重鎮などに働きかけるものの、その目論見は外れる。その代わりに多数の無名作家に関する執筆を任されることとなり、そのうちの一人、溝口俊平に着目した編集者から溝口の遺稿が見つかったためそれに関する解説をしてもらえないかとの依頼を受ける。しかし、遺稿を発見した編集者は殺害され、桑幸は一連の事件へと巻き込まれていく・・・。
 メタフィクションと言う形式はどうも苦手で、この作品でも一体誰の視点で物語っているのかわからなく、良くわからないままに読了しました。これに関しては巻末の解説に説明がしてありましたが、なるほどそういう読み方なのか、と思っただけでした。視点が固定されていないことは読むときの妨げにはなりませんが、神の視点であるはずの描写が妙に嫌らしく世を拗ねたような文章であることがどうも苦手だった原因のようです(皮肉っぽい神です)。
 登場人物はほとんどが卑屈、横柄、もしくは馬鹿に描かれています。桑幸は「俺はまだ本気を出していない。いい加減にやってこの程度なのだから本気を出せばもっと出来るはずだ」などと、いつまでも無職であることの言い訳をしているひとのような思考をしています(前後を含めればもっといやらしい感じです)。仮にも大学の助教授になるような人間がこれほどの馬鹿とは思えませんが・・・。解説によると他にも”だめなアカデミシャン”を描いた作品があるようで、こういうキャラクタに溜飲を下げる人もいるのかもしれませんが、そうとわかってしまったらもうその作品を読む気にはなれません。
 物語も非常に長く、途中で集中力を切らせてしまったので話の構造、もしくは内容を理解したとは思えません。良い読者ではなかったと言うことでしょう。