[読了]荻原浩 さよならバースディ

さよならバースディ

さよならバースディ





 ボノボのバースディは霊長センタで自閉症児とのコミュニケーションを研究するため助手の田中真や藤本由紀と言語学習に取り組んでいる。真と由紀は個人的にも親密で、バースディの言語学習は順調に思えた。しかし、この研究室では以前、選任の安達が自殺しており、助手の真が主任研究員であるという不自然な状態が続いていた・・・。
 霊長類の学習を絡めたミステリ。同様の作品は北川歩実の作品、「猿の証言」にもあり、作品の洗練度はそちらのほうが上に思えました。主人公の真は純真な研究員で、学内の政治的動きには鈍感です。このような研究員は多いのではないでしょうか。一体いつから不正に手を出し始めるのでしょうね。と言いたいことろですが、ほとんどの研究室では何とか研究費を捻出しようとし、不正なことはしていないと思います。額が巨大になると本人自身も細部にまで目が行き届かなくなるかもしれませんが、基本的には正当な手続きで研究費を得ているのでしょう。声の大きい人間が得をするとしても、です。(実際にいるかどうかではなく、想像しやすいという意味で)ありきたりな悪役でしたが、これを読んだ方たちが誤解をしないと良いですね。
 荻原浩はかなり好きなほうの作家で(「犬はどこだ」ではそっちかよ、と言われていますが、悪いニュアンスではなく米澤さんも好きなのだと感じました)、前作(のはずです)「明日の記憶」は素晴らしい内容でした。その期待値のまま今作を読んでいたので、若干期待はずれのような感覚ですが、作品のレベルは十分標準以上だと思います。ただ、連載ではなく、書き下ろしであれば、もしくは加筆訂正をかなり加えることができたならこれ以上の作品になったのではないかと思えました。登場人物の役割があからさまに見えてしまう(そのために配置された人物だと思えてしまう)のは良くないのでは?残念です。もしかするとご本人も不本意なのでは。
 この物語で、主人公の真や由紀、飼育員の方などはボノボのバースディに対して愛情を持って接しているように描かれています。でも、このストーリィ展開ではどうしても人の自己都合のためにバースディが翻弄されているとしか思えませんでした。最後に真は後悔し、決意します。それは、まともな意見であり、真実を知らなかった真は攻められるべきではないかもしれませんが。
 内容には関係ありませんが、本体が分厚い割には紙が厚く、思ったほどの内容の濃さではなかったように感じました。村上春樹の「海辺のカフカ」では紙が薄く、逆の感想だったのですが、この装丁にしたのは何か意図があったのでしょうか?