[読了] 城アラキ 長友健篩 バーテンダー
佐々倉溜は天才バーテンダとして海外で賞賛を受け、彼の作るカクテルは”神のグラス”と呼ばれるほど。溜は実力をひけらかすことなく、他のバーテンダにも、もちろんお客にも丁寧な対応をする。Bar Tender。つまり優しい止まり木であろうとする姿勢を崩さない溜だが、時には若さゆえに思いが行き届かない時もある。
「ソムリエ」で知られる城アラキが原作の、今回はバーテンダが主役の物語。ソムリエの時にも感じましたが、驚くばかりの記憶力と注意力。その記憶は顧客の記憶だけでにとどまらず、文学作品や芸術関係まで幅広いものです。お酒は全く飲めないのでこれからもバーテンダという職種の方に接する機会は無いのですが本当に一流の方はこれほどの能力をお持ちなのでしょうか。縁があれば一度あってみたいものです。”世の中には絶対にお客様を裏切ってはいけない職業がある。ひとつは医師・薬剤師。もうひとつはバーテンダ”らしいのですが、裏切ってもかまわない職業の方が少ないのではないでしょうか(裏切られることを前提としている職業、たとえば賭け事とか手品とか。方向性は違いますけど)。
物語は寓話めいていて、教訓となるようなキィワードが含まれている場合が多いですね。でも、押し付けがましい感じではなく、真摯に生きる人々から得られるひとつの回答として提示されています。さて、神のグラスとは何なのでしょうか。作中ではこう語られています。「孤独に傷つき、行き場の無い魂を救う最後の一杯」。お酒が飲めない身としては行き場の無い魂をどうすればいいのか悩むところですね。ソムリエと同様、飲めないとしても、お酒に関する薀蓄などは読んでいて楽しく、これからも読み続けよう、と思える作品です。