[読了]ニック・レーン 生命、エネルギー・進化
何かの書評で発売されたことを知り、少し遠い大きめの書店まで足を延ばして買いに行った。手に取ってみると意外と軽い。紙の質が違うのだろうか。もちろん内容には影響しないし、字が見づらいこともないのだけど、なんとなく不満。この紙の質感が好きではないのかもしれない。それはさておき、内容に触れていこう。まずは、進化の過程でブラックボックスがあるという話。真核生物は脂質二重膜があり、核が膜で仕切られ、リボソームでタンパクを合成し、ミトコンドリアがエネルギーを供給する。この仕組みが共通であることから、進化の大本になる細胞(になったもの)は一つであるかもしれない。ただ、それをたどってもいつ真核生物が誕生したのかはわからないし、再現することもできない。これはとても面白い話で、言われてみると、原初の地球の環境を模してアミノ酸ができたとか核酸ができたとかのニュースは聞くけれど、そこから細胞に至るまでの道筋を解説したものに出会ったことがない。この本を読んでいて思ったのは、自分にはある程度理にかなったことならあまり考えずに受け入れる傾向があるな、ということ。もう一歩踏み込んで考えると、前提条件があいまいであることも多い。ある仮説を聞いたとき、それ以外の可能性について、他の可能性があり得るのか、あるとしたらどんな可能性があるか考えるのは面白い。ただし、なんでもかんでも疑ってかかると疲れそうではある。
我々は炭素を主体とした化合物で構成されているのだけど、SFでは時折珪素を主体とした生命が登場する。周期表で言えば炭素の下に来るので、同じような電子の配置になりやすいと考えるからだ。構造が今現在の生き物に準じているのが不思議だけど、考えるけど動かない珪素系化合物(見た目は動かない石だ。カーズみたいなものか)では面白くないし(考えを伝達できれば面白いかもしれない)、メカニカルなな動きをする生命体では、意志を持った機械との差がわからないので、結局炭素系の生き物を参考に同じ仕組みで優劣を考えて、という形に落ち着くのだろう。珪素系生命体は、神経の伝導速度が光速に近くなるとか、皮膚にあたる部分が硬いとか、大きい体になれる(ゴーレムのイメージかな)という設定を見かけるけど、改めて考えると、どうやって動いているのか(筋肉にあたる部分はなんなのか)とか、光を透過するかもしれないけど受ける部分はあるのかなど、疑問は次々に出てくる。完全に物理法則が異なる世界は考えにくいし、創り出すとしても進化の過程を考え、どのような生き物になり、大きさは、環境は、と考えることが多すぎる。考えたとしても、描くことが多すぎて、読む側の負担が大きい。複雑に考えすぎて動けなくなるよりは、よくわからないが不思議要素により魔法が使える、とか、前提条件として考える方が読む方としてもありがたい。ただ、この本を読んでしまっては、生半可なSFを見てしまうと不満が出てくるかもしれない。ちょっと知識を得ると突っ込みたくなるのは格好いいことではないとわかってはいるものの、知ったかぶりは楽しい。誰に知ったかぶるわけではないけれど。初めは一つ一つ理解しながら読もうと思っていたけれど、あまりにも遅々として進まないので、まずは一通り目を通すことにした。今、ようやく一回目を読み終わったところ。この時点で思うのは、結局炭素ではなくほかの元素を主体とした生命体はあり得ないだろう、ということ。はっきりとそう書いてあったかどうかは定かではないけど、水素からの電子のやり取りから生まれる一連の過程を見ると、化合物の安定性から、珪素生命体が生まれるのは難しそうだ。ただ、そこからどのような形で進化するかは、まだ想像の余地があるようだ。しかし、結局のところあまり理解できていないのだけど、例えば恒星との距離や地殻の構成など、地球に近い環境であれば、同じような生物が生まれてもおかしくない、というか基本的にはこの形になるのだろうか。ガスで構成されているような星でも、生命が生まれるとは考えづらい。環境が氷点下であるとか、高熱下であるとかならどうだろうか。もともと冷たいとエネルギーの授受が難しそうだ。かといって、いつまでも熱い環境だと、その熱さに耐えられる膜ができるかどうかがポイントかもしれない。現在、2016年12月末だけど、おそらく内容の半分も理解できていないだろう。何回かは読むつもりなので、そのあとの感想も追加していく。
さて、2回目を読み終えた。本当に少しずつだったので、前に進んでは戻っての繰り返しだ。電子の移動など、ある程度そうだろうと思いつつ流していた部分を少し真面目に読んだ。理解は進んだと思うけど、ひとに説明できるかといわれるとまだ難しい。一つ一つの事象は説明できるかもしれないけど、全体像が理解しきれていない。教科書以外で何度も読み返すのは久しぶりだ。かなり手ごわいけど、なかなか面白い。とりあえず、今回の感想はここまでの感想としよう。次の本が出るまでにはもう少し時間がかかるだろう。前作を読み返すのもいいかもしれない。
最後に、内容に対する理解の浅さを露呈することになるかもしれないけど、疑問に思うことを挙げて終わりにしよう。まずは、共生に成功したのは何個の細胞なのか、ということだ。偶然共生することになったミトコンドリアが今の細胞の原型となっているようだ。おそらくその環境では、多くの細菌と多くのミトコンドリアがあったであろう。ものすごい確率でも、何個か共生した細胞があったのではないかと想像する。その場合、同じような進化をすると考えてよいのだろうか。共生する、死んでしまう、の繰り返しの中、生き残ったものが原型だ。それは一つなのか、いくつもあるのか。一つだと考えるのは難しい。そこまで優秀なものが一度でできるだろうか。それとも共生、失敗を繰り返す中、ベストなものがいつしかできたのだろうか。要するに、今気になっているのは、本当の先祖にあたる細胞は一つなのか、いくつもあるのかということだ。これがわかる時が来るのだろうか。その時まで生きているのだろうか。気になる。
次に、可能性について疑問が残る。著者は、かなりの道筋をこれしかないような説明で進めている。読む限りでは、破たんはないし、とてももっともらしいのだけど、どこまでが一本道なのだろう。アルカリ熱水孔でプロトンを利用するところまでなのか、呼吸鎖ができるまでなのか、細胞膜ができるところまでなのか、核膜ができるまでなのか。シトクロムCの構造ぐらいは、環境によって異なることもあるかもしれない。細胞膜を構成する化合物も、多少の幅はあるのかもしれない。それは、今存在する生き物と全く異なる生態系の存在を肯定するのだろうか。残念ながら、そこまで想像が至らない。ただ、炭素が生体の主な構成物質となることは避けられないのではないかと、一連の話を読んで感じた。
これは若干記憶が不鮮明なのだけど、確か熱水孔から離れるために、代謝を獲得したようなことが書いてあったとおもう。周りがすべて熱いままだったら、生命は生まれないのだろうか。熱い環境でも多少の温度差はあるだろうから、熱いなりに代謝をする生き物が出てくるのかもしれない。いま熱水孔の周りにいるバクテリアみたいなものだろうか。ときどき、地球と似た環境の星が見つかったとニュースでしているけれど、今の地球の環境に近いというだけで、それだけでは生命が存在するかもしれないと推定するには不十分ではないだろうか。優秀な人たちの集団なので、それぐらい(かつては熱かったけど、今は冷めているなど過程も類似しているなど)は含めているのかな。何億年もかかって試行錯誤されたことを、いくら条件がわかりつつあるからと言って手元で再現することは難しいだろう。
人間は、人間という生き物として最適化されているので、現在のままではどう頑張っても120歳程度までしか生きられないようだ。ファンタジィ小説などで、長寿の種は子供が少ないとの設定が多い。ただ単にバランスを考えて、長寿で子だくさんだとその種に支配されてしまうからそう設定しただけかもしれないけど、この本で説明していたように、繁殖力と寿命の関係がトレードオフならば、あながち間違った想像ではない。ドワーフのように体躯が小さい種族は子供が多いという話はあったかなかったか覚えていないけど、寿命は短めであったとおもう。周りの動物から観察される特徴を反映しているのかもしれないけど、まあまあ妥当な設定となっているのが面白い。
最近、科学系(ずいぶんざっくりだけど)の本を読むことが多い。一度では理解できないことも、別の本で補ったり、繰り返して読むことで少しずつ理解できていくのは楽しい。もっと頭が回っていたころにこの楽しさを知っていたら、多少は今よりも賢くなっていたかもしれない。まあ、最適ではないけど手遅れでもないと信じて、これからも少しずついろんなことを知りたい。

 

生命、エネルギー、進化

生命、エネルギー、進化