[読了] 郡司めぐ キリン解剖記 

 

キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)

キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)

  • 作者:郡司芽久
  • 発売日: 2019/07/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 とても面白かった。本の構成上いろいろと省略しているのだろうけど、これは研究の過程が書いてある本だ。テーマを決め、現在わかっていることを調べ、わかっていないことについて一定の説があるか、これまで触れられていないかを調べ、自説を考え、科学的なアプローチを考え、着手する。得られた結果から自説に沿う点、異なる点を見つけだし、整合性のある説を考え出す。技術の進歩はあるものの、解剖は昔からされてきたことであり、ライバルは100年以上まえから、というのがおもしろい。個体数が少ない生き物や、あまり触れられていない生き物については、研究者そのものが少ないので、少し前の人物でも身近に感じられるのもおもしろい。本作で示されていることはすごいことではあるけれど、おおもとの説は昔の人が考えたものであり、改めて証明はしたものの、少し物足りなく感じているのではないか、とも思った。小動物であれば、いっそのこと全体を固定してしまい、スライスして観察し、再構成しまうことも可能だろうけど、大動物では運搬の都合上、分離することで失われる情報もあるようだ。巨大生物解剖図鑑では、キリンの反回神経について触れられていた。片づけてしまったので今は読めないけど、新たに神経を作り出してつなぐよりも、元の神経を利用したほうが手っ取り早い、と書いてあった気がする。キリンは、頸椎を増やすよりも一つ一つを大きくしたり、胸椎を応用したりしたほうが手っ取り早かったのだろう。しかし、椎体の形はどれもそこそこ形が似ているのだから、増やさないまでも一つ位置をずらすほうが簡単にも思える。同じ種でも椎体の数が異なるものもいるようだし、頸椎と胸椎の境目を決める遺伝子は、結構自由度が高いのではないか。となると、何かほかの理由で哺乳類の頸椎の数が縛られている可能性が考えられる。椎体の数で規定されることはなんだろう。増えても困る、減っても困る、つながっても困らない。可動範囲は、問題にはならない。情報処理的な問題か。中枢と末梢を分ける必要があるから?鳥類だってわかれている。うーん。なんにせよ物理的な理由だ。まあ、にわかに考えても思いつくものでもない。生きている間に何か指し示されるだろうか。楽しみだ。そこそこ機会が多いのならば、キリンの解剖に立ち会ってみたい(可能なら自分でも手伝ってみたい)ものだ。もう少し頭が良かったら、こういう人生もあったかもしれない(悪いからないのだけど)と妄想するのも少し楽しい。