多崎礼 血と霧

血と霧 1 (ハヤカワ文庫JA)

血と霧 1 (ハヤカワ文庫JA)

血と霧 2 無名の英雄 (ハヤカワ文庫JA)

血と霧 2 無名の英雄 (ハヤカワ文庫JA)

物語の舞台は血が力を持つ世界で、その強さによる身分制度が存在する。ここの性質により得意とする分野は異なるが、頂点である王女の力は圧倒的だ。まれに、血の力が強くない同士の組み合わせから、強力な力を持つ子が生まれることがあり、主人公はその一人だ。細かいことを書きすぎると興をそがれると思うので、あらすじは世界の設定のみとしておこう。
多崎礼の作品は3〜4巻で完結することが多く、1巻と2巻という表記だったのでこの後も続くのだろうと思って、購入はしたものの積読となっていた。なんとなく検索しているうち、どうやら2巻で終わりの様だということがわかり、読み始めた。著者のブログを見ると、売れ行きによっては続きがあるそうなので、期待しておこう。
今は、というかこれまで経済的に豊かであった時期はあまりないのだけど、生きるか死ぬか、という生活をしたこともない。この先、生きるために汚いことをしなければいけなくなった場合、どこまでのことをするだろうか。今は、他者を害してまで生きようとする力は残っていないのではないかと考えている。そこまでして生きて、どうしたいという先がないからかもしれない。他者を害することは、想像力が欠如しているからだと考えるのだけど、想像力に支配されて、何も行動できなくなることも良いとは思わない。勝手に相手の気持ちを想像して、結局何もしないことも多い。今でもそうだ。それでも、得られた情報から想像するし、何も想像しない自分は、それこそ考えられないし、自らの生き方だと考えるしかない。自分に無い環境や、ない感情をどこまで想像できているかを確認することは難しい。抽象的な話になっているけれど、いろいろと想像することは大事だし、時折想像と現実の差を補正するためにも行動することが必要だとおもう。
主人公は、頑丈な体を持っていることもあるのだろうけど、他者のために傷つくことを恐れない。自分に向けて、度が過ぎた献身を向けられると、ちょっと怖いのだけど、今まで放っておかれた人が、こういった優しさを向けられると、その人に傾倒してしまうかもしれない。残念なことに心の壁はかなり厚めに作られているので、この先そう思うことはないと予想している。主人公以外にも、登場人物たちはとても格好いい人が多い。特に、マティルダは、さっぱりした性格で実力も伴っており、とても好ましい。湿度が高い性格をしていると自覚しているので、からっとした彼女はとても好ましい。
何か幸せなことがあればそれまでの不幸が帳消しになるのか、何か不幸があればそれまでの幸せが帳消しになるのかはわからない。登場人物たちは、悔いはあるのかもしれないけど、達成感もあっただろう。他者とのかかわりが少ないし、何も成し遂げてはいない人生なのだけど、いつかそういう機会があれば、思い切って行動することができるだろうか。正直自信はないけど、この本を読んだことで、ほんの少しでも、行動するための勇気が蓄積されたのではないかとおもう。