蒼天航路 王欣太

極厚 蒼天航路(1) (KCデラックス モーニング)

極厚 蒼天航路(1) (KCデラックス モーニング)

面白かった。あまり三国志のことは知らないのだけど、それでも十分以上に楽しめた。三国志といえば、劉備とか曹操とか、有名どころしか知らないし、そもそも曹操が悪役として捉えられていることも知らなかった。Wikipediaをみたら、近年みかたが変わってきているとのこと。
それはともかく、こういった物語では脇役に目が行ってしまう傾向にある。もちろん主人公やその他の人たちも印象的だし目を惹かれる部分は有るのだけど、自分だったらたぶんその他大勢の一人なのだろう、とおもうとそちらへの感情移入のほうが大きい。怪力のひとや武芸に秀でたひとにあっさり殺されてしまう、物語ではほとんど顔も出てこないような人たち。世の中はそういった人たちで動いているのだと思うのだけど、確かに物語の主人公にするには弱いかな。
天下を獲る、と主人公たちは言う。それはいったいどういうことなのか。絶対的な権力を持って、すべてを意のままにしたいのか。あまり他人を動かしたいと思ったり贅沢をしたいと思うほうではないので、そういう気持ちがよく分からない。全くないわけではないので、そこから広げて想像すると、どうしても面倒だろうな、とか命を狙われたり陥れられたり大変そう、と思うほうが強いので、想像できてはいないのだろう。大勢を救うために少数を見殺しにしなければいけない場面と言うのはきっと今でもある。見極めはとてもむずかしい。49対51だったらどうするのか、とか。ただ、少数であろうと力を持った人を優遇しているように感じられる(あたりまえとも言える)社会だ。その他大勢で、あっという間に殺されるキャラクタとしては、もう少し何とかならないかと思う。民のことを考える、との設定である劉備ですら贅沢は大好きだし、大勢の民の死を比較的あっさりと受け入れてしまう。今とはだいぶ考え方が違うのだろう。劉備にしても、結局は王家の血筋だかなんだかで認められている部分があるように思えた。民衆の命が軽いころだったのだろう。
ところで、頸をつったらその瞬間にブラックアウトしてしまうとの実験を昔の学者が実際に行った(自分自身で)。漫画のように首をすぱっと切られてしまうとしたらどのような意識のあり方なのだろう。おそらく、頸をつったときよりは長く意識が有るのでは。とはいってもすぐに首から上は回転するだろうし、感覚としては同じようなものだと想像します。となると飢えで苦しむよりはそちらの方がいいかな。あっさりと死ねるのならそれもいいかも。死を思いとどまらせるのは人や社会とのつながりと死に至る過程の不明瞭さだ。前者も残っている部分は少ないし、後者も何とかなるような気もする。まあ、ここの更新がとまったからと言って死んだわけではないのであまり気にせずに。しないか。
週刊連載でこの絵はすごいなと素直に思う。途中で少し絵が乱れてきたかしら、と思う部分もあったけれど、総体としてはとても良かった。おきにいりのキャラクタとしては、まず「許〓」素直で純真。それだけに残酷な部分もありました。しかし老けないひとです。次に、「夏侯惇」。頭がいいのか悪いのか。兵卒に戻ったあたりが一番すきだ。そして、曹操の軍師二人。彼らがいてこそ物語が締まった。曹操もある程度話を聞いてからだと、頭の回転が速いようなのですぐに理解し、先を読めるかもしれないけれどそこに気づくことができるのか、というとできないのだろう。もちろん即理解できることはすごいことですが、気が付く方が(その分野に関しては)明らかに優れている。
無知をさらすようだけど、州牧とかって普通に有る言葉だったのね。あまりなじみがない漢字の組み合わせなので、てっきり造語かと思っていた。三国志も、ほぼ完全に創作なのかと思ったら一応史実と重なる部分も有るようで。ではなくて史実に基づいて作られているのか。司馬遼太郎みたいなもの?あまり書くと馬鹿をさらにさらけ出すのでこの辺でやめておこう。
三国志といえば吉川三国志(読んでいませんが)もしくは北方三国志北方謙三といえば水滸伝(ちがうかも)で、北方水滸伝は読みたいなと思っているのですが、なかなか手が出ません。いつか読みたい作品のひとつ。