海野碧 篝火草

篝火草

篝火草

海野さんの作品はハードボイルドなのだろうけど、そうでもないような印象を受ける。主人公が万能びっくり人間ではないからかもしれない。人間そんなものかもしれないけれど、ものすごく残酷な描写がされているのにどこか甘かったり、計画的であるにもかかわらず肝心なところがずさんだったりする。読んでいる最中に気になる、と言うほどではないけど、読み終わったあとに、そういえば、と思い出す感じ。
物語は、子どもを亡くし、別れた夫婦の妻側が変死したことで始まる。この先はネタばれになるので書かないけど、この女性から受ける印象は、前作(前シリーズ)のヒロインに近い。痩せ型で薄幸。
さて、この作品には知能が突出した少年が登場する。ライトノベルのように、頭がいい上に見栄えがいい訳ではない。歯並びが悪く、育児放棄に近い扱いを受けているため、薄汚れた服を着ている。でも、彼は虐待された子どもに良くあるように、親をかばう。少し違うのは、親の心情などを汲み取った上でかばっている点だ。決して無邪気に慕っているわけではない、と主張。しかし、本文中にもあるように、感情はこどもにすぎない。真賀田四季レベルの天才ならともかく、ちょっとIQが高いくらいでは、親を慕ったり、甘やかされることを望んだりするのはあたりまえなのだろう。
ところで、これまでの人生でIQを測ったことがないのだけど、IQを測ることって一般的なのだろうか。どんなものか知らないのだけど、立体パズルを解いたりするの?と、ここで思い出したけど、吉田秋生のバナナフィッシュで、アッシュの知能指数を測っていたけど、あの時はフィボナッチ数列がどうとか言っていた。もちろんレベルによって問題も違うだろうから、賢いと判断された子は何度も受けなければいけないのだろう、と予想するけど、解ける問題を解かせてもいまひとつ「知恵」は分からないような気もする。でもまあ、簡単には解けないパズルを簡単に解くのは、相応の知恵があるのでしょうね、といいたいところなのだけど、ある程度なら発想も練習で何とかなるとおもう。何とかなるというか、考えるパターンを増やすのは比較的簡単だし、少し頭のいい子なら若干の応用ぐらいは可能なのではないか。何がいいたいかというと、本当に頭のいい子は検知できるかもしれないけど、そうでない子も結構拾ってしまうのでは、と言うこと。 この作品に出てくる少年は、結構本当に頭が良いみたいで、観察力もある。面白そうなことを見つけるのも才能だ。うん。
こんなことばかり書いていると、主人公はこの少年なのか、となるけれど、主人公はもちろん先述の、妻を亡くした中年男性だ。ハードボイルド探偵物では、ちょっと一般人には無理だろうとおもうような行動をとる人がいる。痛みに強かったり、やくざにからんでみたり。頭がおかしいと相手に思わせたら勝ち、との文章も時折見るけれど、ああいった人たちに「頭がおかしい」と思わせるのはかなり大変だ。そこいらの一般人にできそうにはないし、少なくともできない。この作品では、ちょっと他人の力も借りるけれど、基本的には自分の力の及ぶ範囲で物事を進めている(まあ、そうでない部分もあるけれど、基本的にはだ)。それが特別新鮮だとはおもわないけれど、一般人にできそうな視点で話が進むのは良かった。
主人公の能力に関して、現実とのバランス感覚はとても優れているし、読みやすい作品ではあったものの、裏返せば、強力に推すものがない、とも言える。そのあたりは好みになってしまうのだろうけど、物足りなさを感じる人もいるかもしれない、と読了後少しおもった。でも、個人的には面白く読めたし、海野碧さんの作品は、今後も読みたい。