[読了]ニック・レーン 生命の跳躍

生命の跳躍――進化の10大発明

生命の跳躍――進化の10大発明

amazonでの評価が高いのも納得の面白さ。構成から語りまで上手で、文句のつけようがない。更に、翻訳ものの文章が苦手なのにこれほどすらすらと読めたのは訳者の巧さもあるのだろう。
基本的な知識は日経サイエンス程度でちょっと科学好きの大人に紹介する程度しかないけれど、なんとなく分かった気になってしまうのがすごい。あとからもう一度誰かに説明できるかなとおもったけど、細かい数字や発見した人の名前などを抜かせば何とかなるかもしれない、なんておもってしまうのもすごいところ。よーく考えると、この説得力を持って説明することはできない。日経サイエンス程度、と書いたけれど、実際にはそれよりもはるかに浅い知識しかない。それでも、ニック・レーンのこの著書がそれよりも優れていることぐらいは分かる。
生命が誕生することの奇跡について、以前ニュートンだか日経サイエンスだかで特集が組まれていた。それによると、太陽との距離とか、地軸の傾き、元素の組成など、相当低い確率を乗り越えないと生命は生まれない、とあった。どういう試算で割り出したのか分からないのだけど、この本ではただ単に確率が低い、と言うだけではなくて「こういう環境下では起こりうる。ではこういう環境はどういった条件で作られるのか。それには何が必要条件で、荒唐無稽な条件なのかそうではないのか」など、自身の考えを挟みながら面白く進めてくれる。
ところで、こういった科学を紹介する作品では、科学者の人となりを書いてあるときがある。それは、おそらく本人が文書として残していたり、知己から得た情報なのだろうけど、あまり本編には関係ない、ちょっとした面白エピソードが好きだ。かなり有名な人になるとその逸話(どのようにしてその成果を出したかなど)が本になっているけど、まるまる一冊そういうのを読みたいわけではない(ファインマンさんとかは面白いけど)。本になって出版されたということは、多くの人がそのことを知っているだろうし、あらためて知らなくてもどこかでみるのではないか。それよりも、この本で読まなかったらこのひとのエピソードを知ることはおそらくなかっただろう、とかおもうのが楽しい。例えば、自費で研究所を作ったとか(それも貧相で、今だったら設備の妥当性を疑われるようなものが楽しい)、メインは別の仕事をしていて、副業が科学者であったとか。実は性格は悪くて、いつか見返してやる(そのほかこいつは許さないとかの)リストを作っていたとか。
順番としては、前著から読んだ方が良かったのかもしれないけれど、この面白さを体験したら、前著も読みたくなってしまったので、前作「ミトコンドリアが進化を決めた」を購入した。すごく楽しみだ。