島本理生 アンダスタンド・メイビー

アンダスタンド・メイビー〈上〉

アンダスタンド・メイビー〈上〉

アンダスタンド・メイビー〈下〉

アンダスタンド・メイビー〈下〉

昔に比べれば病気で若くして死ぬことも少なくなったし、世の中はすこしずつでもよ
くなってきているとはおもう。それでも、感覚として生きやすい世の中になったのか
と考えると、必ずしもそうではないかもしれない。
この物語では、性のこと、信仰のこと、そして生きることについて描かれている。今
でも多くの人が新興宗教を信じ、人生を損失しているのはなぜなのだろうか。これだ
け情報が広がる世の中になっているので、ある程度の知識は備えているはずだ。で
も、それは知識だけの問題であって、実際にあって体を動かしたり、何かを見聞きし
たりすると抗えない場合もあるのだろう。
20歳を超えているならば、手元にあるものを投げ出して、逃げてしまうのも、自分の
信じるものに人生をささげるのもありだ。でも、子どもはなかなか劣悪な環境から逃
げ出すことができない。実際に力がないこともあるし、力がないとみなされて、押し
つぶされてしまうこともある。逃げられない環境で、親を信じながら死んでしまった
子どもなどのニュースを見ると悲しくなる。それほど過酷な人生を歩んではいないけ
れど、子どものころに帰りたいとおもうことが決してない。そのころの不自由さを覚
えているからだ。
作中の登場人物に「死ねばいいのに」とおもえるひとが何人か登場する。こういう人
物像を見て胸がむかむかするのは、こういうひとが世の中には存在するのだと、完全
なフィクションではないと感じるからだ。実在するひとに対して「死ねばいいのに」
とおもうのはいけないだろうか。残酷な事件の詳細を知ってもなお、そんなことは考
えてはいけないと断言できる人は、きっと、すばらしい人格なのだろうけど、近づき
たくはない。
何かを選択するとき、○○したいから選ぶ人と、○○したくないから選ぶ人がいる。
どちらかと言うと後者なのだけど、将来苦労したく「ない」から対して面白くなくて
も収入が安定している仕事を選ぶか、お金で苦労したとしても、面白くもないことを
ずっと続けるのも苦痛なので、興味のある仕事を「したい」かでは少し迷った。奨学
金と言う名の借金もあるし、親にも苦労をかけたし、お金の魅力は強い。それでも、
後者を選んだのは、あまり趣味もないし、仕事以外の、本来メインとなるべき部分が
つまらない人生になりそうだったので、せめて仕事くらいはとおもったからかもしれ
ない。今の仕事を選んだせいでもないのだろうけど、異性と縁遠くなってしまったの
はある意味予想通りだ。
希望をもてそうな終わり方だったけれど、主人公はこれまでの流れを変えることがで
きるのか、と少し不安におもう。一気に読んだので、リーダビリティは高い作品だけ
ど、たとえば、誰かに勧めるとしたらどういう層に勧めたらいいのかは良くわからな
い。作者の、他の作品も読んでみて、これからどうするか(作者に注目するか)を決
めるつもり。