中村弦 天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語

天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語 (新潮文庫)

天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語 (新潮文庫)

日本ファンタジー大賞を受賞した作品。面白くないとは言わないけど、地味な展開のまま終わってしまったように感じた。大きな出来事がないとつまらないわけでもないのだろうけど。個人的には立体(3次元の認識)が弱く、文章で書かれてもあまり想像することができない。現実でも結構その傾向が強く、ちょっとくるくると回るとどちらが北やら南やら分からなくなってしまう。方向感覚に優れた人と言うのはすぐに方角が分かるらしいので、それはとてもうらやましい。これが本の感想とどのような関係があるのか。本文中では奇想天外、とまではいかなくてもあまり見ないような建築物が主役となる。その描写は(きっと)美しいのだけれど、それを把握しきれないのがこの作品を期待していたほど楽しめなかった原因ではないかとおもう。読書を楽しむのに想像力は欠かせないのだけど、有る分野ではものすごくそれがかけていることを痛感する。今回のような立体空間の把握が必要なものや、スポーツ根性ものの心情とか。
あまり勝負事で佳境にいたるまでのレベルに達したことがないので、勝負へのこだわりも実は良くわからないものの一つかもしれない。大人になっておもうのは「1番じゃないとだめなんですか」でもないけれど、あまり個人で一番を目指す状況はないな、と言うことだ。もちろん、同じ会社の中でもトップを争うような人たちは切磋琢磨やら足元の掬いあいなど、いろいろとやっているのだろうけれど、上司から使い捨てっぽい扱いをされている身としては、そこまで仕事に入り込んでもあまりいいことはないとおもえる。1番を目指しても大して評価はないのだから、1番を目指す心情は生まれにくいのだろう。
部下の評価を好き嫌いで判断して欲しくはないものだけど、上司とはそこそこ人間関係的にもうまく付き合えていたとおもっていただけに(信頼もしていた)、失望が大きく、もはや信頼することはできないだろう。
かなり話がそれた。主人公は人嫌いではないもののあまり積極的にコミュニケーションをとろうとはしない。それでも建築設計の依頼が来るほどの天才であり、慢心もしない。うん、すばらしい。この主人公は、一度だけ女性と惹かれあって結婚する。その過程があまり描かれていなかったのが残念。