彩坂美月  ひぐらしふる

ひぐらしふる

ひぐらしふる

ミステリ作家を目指す女性と、その友人や恋人の話。良くある日常ミステリかな、と思いながら読んでいたのだけど、読み通した後の感想は少し違う。それはここには書かないけど、読後感はよかった。あえて分かりやすい伏線を書いているのだろう、と感じたのだけど、それは最終的な構成のためだったのかな。それにしても、光原百合さんの作品をはじめて読んだときのような読後感があった。このひとはどれくらいのペースで書いてくれるのかわからないけど、この後数作は読むつもり。期待しています。
さて、ミステリを読むものとして、日常の風景でも、気になることは結構あるのではないだろうか。もちろん、ミステリアスなことが毎日起きるわけではないけれど、毎日見かける人の組み合わせが変わったり、不自然な動きをするものがあったりすると、その背景にどのような話があるのか想像してしまう。例えば、通勤途中に二人組の高校生(か中学生)が通学していた。その二人は1年間ずっと一緒に通学していたのだけど、ある日から別々に通学するようになった。ひとりは他の友人と。もうひとりは一人きりで通学するようになった。更にしばらくすると、別の友人と通学していた方をみなくなった。観察したのはそれだけだ。でも、もしかしたら喧嘩したのかな、とか、片方が引っ越すことが決まって、ちょっと仲たがいしてしまい、仲直りできないまま引っ越してしまったのかな、とか、ぎりぎりで仲直りして、今でもメールのやり取りなんかしているのかな、とかいろいろと想像する。どれが正解なのか(全部はずれなのか)は判断のしようがないけど、いろいろと想像(ほぼ妄想だけど)するのは楽しい。
日常の謎」をテーマにした作品では、まず不可解な点に気が付くことが重要だ。世の中は不可解なものであふれているかもしれないけれど、多くの人は見逃しているし、みていたとしても気に留めない。日常会話でおもうのは、人は本当に興味のあることしか認識しない。興味があること、と言うと範囲がかなり限定されてしまうのでもう少しざっくりと言うと、アンテナを張っている範囲の事象しか認識しない。道路で狸が死んでいても、虹が二重にかかっていても、今年最初の桜が咲いていても、気が付かない人は気が付かない。こういうのって面白いなあ、とあらためておもう。こちらにとってはミステリでも、ほかの人にとっては全くミステリではないのだ。もちろんその逆もある。実生活でのミステリは、なかなか検証しづらいのが残念だ。話だけ聞いていると全くその通りで、整合性が取れているという話でも、それを確認することはひどく難しい。なので、多少の謎はいつも謎のまま終わるのでした。んっと、ここで言いたかったのは、日常の謎に必要なのは①謎に気が付く人②そのストーリィを考え付くひと③裏づけを証明できる人、だよね、と言う話。
 この作品の主人公は、何度もシリーズ物の主人公になれるようなキャラクタではない。念のため書いておくと、魅力が無いわけではない。作者はあまりひとが気に留めないようなことを掘り起こすのがうまいとおもう。