宮部みゆき 小暮写真館

小暮写眞館 (書き下ろし100冊)

小暮写眞館 (書き下ろし100冊)

これはほんとうにおもしろい。これまで読んだ中でもベスト3に入るといっていいかもしれません。特に大きな事件がおきるわけではないので、人によってはごく普通の話でおもしろくない、との感想を抱く人もいるかもしれないなとおもいつつ書きますが、ほんとうにおもしろかった。
このおもしろさをどうやれば表現できるのかわかりません。物語は、古い商店街で、今はもう持ち主がなくなった写真館を購入した家族を中心に進みます。視点は、その家族の長男。彼は高校生なのですが、この少年がちょっと出来が良すぎるだろう、と言うくらいいい子です。彼の視点で見ているから、というわけではないのですが、彼の友人たちもものすごくいい。良く報道などでは、最近の若者はとか言いたがっているように感じるのですが、実際にはこんな子供たちもたくさんいるのかもしれません。彼のいいところは、必要以上に穿った考えを持たないところ。言われるがままでもなく、自分で考えることが出来る少年なのですが、その思考がなんというか、清冽というか、まっすぐで心地よい。友人たちも負けず劣らず良い子たちです。当たり前といえば当たり前ですが、ひとはうまれ持った環境が違います。それをひねくれて受け止めるのではなく、自分の環境は環境として受け入れているあたりがとてもよかった。あと、鉄道ファンの子たちもとてもいい。あの年で、あの心意気の子供がいったいどれくらいいるのか。少なくとも、自分が高校生のころはそんな子はいなかったような気がします。と、書いてからおもいましたが、交流が少なかったから知らないだけで、実はたくさんいたのかもしれません。楽しさを押し付けるわけではなく、興味をもつ人の興味のある部分について、自らの持てるものをすべて出し切ろうとする姿に惚れ惚れしました。このほかにもいろんな子が登場します。彼らについては、描写の多寡があるとしても、どの子もはっきりとその子の姿が見える。これは、ほんとうにすばらしい。ライトノベルなどではとっぴなキャラクタで個々を分けようとしすぎて、かえってその世界観では普通になってしまっている作品がありますが、この作品では、それほど突出した性質が無いにしても、少しその部分を光らせるだけで個々を見分けることが出来ます。読書になれている人はもちろん、なれていない人でもそういう風に読めるのではないでしょう。あと、主人公の兄弟もとてもいい。こちらはまだ小学生で、自分のかわいらしさを知りつつ行動するあたりが小癪だといえば小癪なのですが、たぶん大人たちは彼が「そういうことを知りつつ行動していること」を知っている。それがまだ透けて見えるかわいらしさと、じつはそれすらも踏まえているのではないかという頭のよさが、多少現実味が無いものの、ほんとうにかわいらしい子です。まだ、いろんなことを真正面から受け止める、その姿勢がとてもよい。知り合いの話などを聴いていると、どうしても子供を甘やかしがちで、生意気な(は、それはそれでいいとおもうのですが)、何もしない子になっている子が多い。まあ、それは親の視点から見た(他人にむけて話す)子の姿なので、かならずしもそうとは限りません。
 もっともっと気に入った部分はたくさんあるのですが、ここまででずいぶん長くなってしまったので、これで終わります。これは、分量が多いとしても、価格が多少高いとしても、ぜひ、出来れば、今、読んで欲しい作品です。すごく、おすすめ。