白河三兎 プールの底に眠る

プールの底に眠る (講談社ノベルス)

プールの底に眠る (講談社ノベルス)

メフィスト賞受賞作。読んでいる最中からずっと、どこかでこのひとの文章を読んだことが有るのではないかと感じていました。最後まで読み終わっても結局分からなかったのですが、誰に似ていると感じたのでしょう。
それはともかく、作品は懐かしさを喚起する内容でした。とはいってもそんなに楽しい学生時代だったわけではないのですが、宮崎アニメのように「経験したことはないけれどなんとなく懐かしい」と感じてしまう文章です。もしかして著者はあまり若くないのかも、とか書くと失礼でしょうか。物語の構成上そうなっていてあたりまえなのですが、青年が思い出した少年像を見ているような気分でした。さすがにあまり中高生のころどんな気もちだったかとか思い出せなくなってきているかも。へんな書き方をすれば、「中高生のころそう思っていたと思っていた」と憶えている。つまり、憶えているのは中高生を過ぎてしばらく経ったころの記憶です。たぶん、もう歪んで憶えている。それもまた良し、ですか。
こうして書きながら、誰に似ているのかを一生懸命思い出そうとしているのですが分かりませんでした。気になっているのは主人公がいろんな思いを抱えているのに淡々としているところ。あとはなんだろう。視点が本人でも第三者でもなくて、透明な隣人のようなところ(客観性を保ちきれていない客観のような。って書けば書くほど分からないかも)。