あざの耕平 Black Blood Brothers
完結したとの話をどこかで読んだので、一気に読んでしまおうとほとんど前知識なしで読みました。設定がうまいというか、これまでの吸血鬼に対するイメージをそれほど損なうことなく、なおかつ著者オリジナルの設定を作ることができたのではないでしょうか。
登場人物(吸血鬼)がたくさんいて、それぞれにコメントを書いていたらきりがないし、あらすじを書いても仕方がないので抽象的な感想を書きます。
生きている時間軸が違う、というか寿命が違う生き物同士の交流って難しい。犬とか猫とか飼いたいとおもうけれど、おそらく先に死んでしまうだろし、もしこっちが先に死んだらどうなるのだろうとおもう。まあ、それを言い出すとひと同士でも難しくて、同時に死ぬことなんてできないし、かといって交流をたつのは何か違う。吸血鬼とひとはほとんど同じにもかかわらず寿命が違う。作者はいろいろと工夫をして、千年単位で生きる生き物が生きることに倦まないためにどんなことをするかを描いています。なるほどなあ、とおもう一方で、ほとんどの人は千年生きることに耐えられないだろうなともおもいました。殺されなければいつまでも生きていられるというのはどんな感覚なのでしょう。作中では筋力などが衰えることがないので、もしかしたらいつまでも生きていられるかも。体が衰退していくことで、死に備えるのか。
たくさん登場人物がいたわりにはそれほど焦点がぼけてしまうこともなく、それぞれのキャラクタが生かされた作品だと思います。主人公はミミコであり、ジローであり、アリスであるのですが、全体を読み終えておもったのは、一番の主人公はカーサなのではないかな、ということ。主人公、とは少し違うかもしれないけど一番印象に残ったのはカーサです。とても魅力的なキャラクタでした。
この作品では、いろんな吸血鬼のルーツとなる始祖が登場するときは「時代」や「世界」に求められて登場するとあります。世界に受け入れられないのに世界に求められるというのも少し変な話ですが、停滞した世の中を動かすために現れたのでしょうか。それは、残った大多数からの視点であり、そのように生まれたものは受け入れられるのでしょうか(作中では受け入れていましたが)。傲慢な視点にはなっていないか、と思ったのが少しありますが、物語を面白くする要素としてはありかと思います。
ラストはああなるとは予想しませんでした。ありといえばありですがもう一人増えるんですよね。まあ、増えたら増えたでそのときのどたばたを想像して楽しむのもまた楽しみ方の一つかもしれません。短編集も含め、量、内容ともにとても良いバランスで楽しめました。