紅玉いづき MAMA

MAMA (電撃文庫)

MAMA (電撃文庫)

 この作者は、誰も悪くないのに、求めるものも単純で些細なものなのに届かない悲しさを書くのがうまい。与えられて当然と思っているものが実は貴いものであることはなかなか気が付きにくい。親から与えられたものは、命だけかもしれないけどそれだけではないかもしれない。
増田ダイアリなどを見ていると、親子の愛情についてたまに書かれていることがある。それはきっとすばらしいもので、その人にとっては宝物のように思えるだろうし、否定するつもりはないけれど、血の繋がりがあればすべてがうまくいくわけではない。あなたの経験を一般化するな、とのコメントも見た。一般化することには無理があるけど、その人にとっては事実で真実なのだろうとも思うけど、血がつながっていても互いに理解できないことはたくさんある。血がつながっているからこそ受け入れられないこともある。それはこちらの体験でしかなくて、他の人に押し付けるつもりはない。ただ、こんな人もいるというだけ。
物語では親子間に限らず愛情が描かれている。自身の親とは築けなかった絆のようなものを、自分が新たに家族を得たとしたら築くことはできるだろうか、と考えた。わずかな希望(意味が重なっているけど)としては、その望みを抱いていたし今でもほんの少し抱いている。客観的な予測としてはおそらくできないだろう。可能性を断った、断たれた、断ってしまったときの岐路を思い出しながらこの世を去るのだと思う。どうしようもないことはどうしようもないとあきらめられたら簡単なのだろう。登場人物も、求めていたものは実は近くにあった、との面もあった。どうしようもないとあきらめていたはずなのに、実は近くにあったという。それは幸せなのだろうか。それとも不幸せなのだろうか。我々の周りには我々が望むものが常にそばにあるかもしれない。あるかもしれないが、実際はないことの方が多いだろう。希望を持つこと、持てること自体が幸せなのかもしれない。本当に絶望したときは「絶望した」などといっていられるはずもなく、虚無に満たされるのみだと思う。
本編に関係がないわけではないのですが、若干離れた内容になりました。