辻村美月 名前探しの放課後

名前探しの放課後(上)

名前探しの放課後(上)

名前探しの放課後(下)

名前探しの放課後(下)

 新年第一作目がこれでよかったと思える作品でした。物語は主人公のひとりである依田いつかが3ヵ月後の世界から急に戻ってきた事から始まります。3ヵ月後の世界では同級生が自殺した。そのことをいつかは知っている。交際相手を次々に変えてきた、見た目はいい、いつかですが、その自殺を止めるために本気で動き始め、現実にあるとは思えない話を受け入れた同級生たちと自殺を止めるために策を練ります。
 これは、本当に良かった。現実の高校がどのような雰囲気なのかはよく分かりませんが、もしかしたらこんなものかも、と思ってしまう描写でした。辻村さんの作品に出てくる登場人物は書き分けがしやすいようにある程度の分類がされているような気がします。それが悪いのではなくて、特徴を決めてそこを中心に描くことで各自のキャラクタが際立ってくる。もちろんそんな画一的な人間はそういなくて、深いところには共通点があるのだろうと思いながら読んでいくとさらにそれらのキャラクタの造形が見えてくる。
ちょっと内容に触れるので隠します。
 設定にはちょっと強引なところもある作品ですが、すごく面白かった。青春小説の金字塔、という帯は言い過ぎかもしれませんがその期待に応える作品です。
 途中からなんとなく違和感があって、ある時点から多分これは、と思うようになります。全部読み終わってから少しだけ読み返したのですが、はじめの描写はちょっと叙述トリックとしては受け入れにくいものかもしれません。まあ、そんなことは瑕疵に過ぎず、全体のよさは損なわれません。下巻の後半ぐらいからもうどきどきして読んでいました。
 これだけ友人のために何かをする登場人物たちが本当にすばらしい。すばらしいというか、いとおしいに近いかもしれません。格好をつけていてもやるときにはやる主人公たち。その行動はもしかしたら守ろうとしている人を傷つけるかもしれないと思いつつ、それしか方法がないと判断した彼らは迷わず行動します。この潔さも若さのいいところで、同じことが出来るかというと、多分出来ない。老成しすぎた同級生もいますが、彼はもしかして他の作品に登場するのでしょうか。すぐには思い出せませんでした。途中でチヨダ・コーキが出てきたのは作者の遊び心でしょうか。作者の描く世界がつながっていることを書くのは伊坂幸太郎に良くあることですが、今まで一応全作品を読んでいる愛好家としては嬉しい遊びです。