乙一 The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day

The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day

The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day

 乙一ジョジョのノベライズを書いているという話はずいぶん前から聞いていて、昔は乙一の日記にも書いてあった気がするのですが最近その話も聞かなかったので没になってしまったのかと思っていました。まさか何年間も書き直しをしていたとは。あとがきにはこの作品に書ける思いが伝わる文章があります。
 もともと「スタンド」を理解(把握)していないと情景描写から想像するのは難しいかもしれません。ところどころある挿絵が想像の助けにはなるものの基本的には漫画の既読者を対象にした作品です。とはいえ、よくここまで原作を基にした内容で乙一らしさを表現できるなと感心してしまうのですが、別名でかかれていても判るかといわれると少し自信はありません。原作では鉄塔の上で生活するスタンド使いがいたのですが、この作品でも少し似た状況が描かれていました。ちょっとありえないというか、無理だろうと思うのですが、その話がこの作品の基幹となるものであり、ひとの思いの強さを描こうとしていることが判ります。原作を読まない人は知らないと思うのですが荒木飛呂彦作品の主題は「人間賛歌」であり、残酷な場面が描かれているとしても「人間ってそれなりにいいものかもしれない」と感じることが出来る作品です。少し話がそれますが、荒木飛呂彦さんは多くの作家や漫画家に影響していて、西尾維新さんなどもそれを表明しています。超能力を具現化した「スタンド」はそれ以降の作品で超能力が出てくるとあんなスタンドがいたとかいろいろと言われてしまうほどです。スタンドのいいところというか荒木飛呂彦さんの作品のいいところは、力がすべてではないところです。スタンドはもともとの性質で力が強かったり遠くまで移動できたりするのですが、その使い手の意思の強さに比例して強くなる向きもあって、もって生まれたものだけで勝負するのもありだけど、工夫次第で対抗することが出来る、との考えが感じられます。実際はどうかわかりませんが。
 今が寒いからか、物語で暑い場面が出てきても心中はひんやりとしたままでした。悲しい物語の悲しい結末。どうしてもせずにはいられないことがあって、それは不毛なことかもしれなくて、結果、誰も幸せにならないことは現実でもあることかもしれません。少し心がひんやりとして、締め付けられるような読後感。ジョジョ好きにはもちろんですが、乙一の読者でも楽しめる作品です。特に乙一作品の読後感を好む人には良いのではないでしょうか。あと、この装丁と量で1500円は安い。