長谷敏司 円環少女

面白かった。ここまで世界設定を考えている作家がどれだけいるのかと思うほどいろんな面で考えていることが伝わってきます。著者の言うほど文章の読みにくさは感じませんが、読み終えるのが少々もったいないと思えるほどの内容でした。ちょっと大げさに言えば正義とは何かを考える題材になるほどです。今はあまりそういったことを考える時代ではないのかもしれません。もちろん、全共闘時代の話もわからないし、本やTVで見たものぐらいしか知らないのですが、いつの時代でも考えることは重要です。これを読んだ若年層のひとたちがどう考えるのかはわからないし、どう考えれば正解だというものでもない。できればいろんなことを考えるきっかけになればいいなとは思うのですが、自分がそうだったからといって他人も同じ感想を持つわけでもないので、どのような感想を持ったのか興味があるところ。とは言え、いろんなことを考えたからそれを表に出すとも限らず、感想を見て回っても内容以上のことは書いていないのではないかと思います。
主題もともかくですが、戦闘場面もきちんと書いてあって、簡単に復活してしまう点がちょっとあれですが、復活するからといって痛みがなくなるわけでもなく、玉砕とまでは行かなくてもそれ相応の覚悟が必要であることは確かです。いろんな事で後がない彼はある集団を壊滅させるのが目的になったり、守ることが目的になったり立場が二転三転します。そのことで信用を失うことも多いし、うらまれることも多い。それでも彼にはひとつだけ確固とした思いがあり、そのためにすべてを擲とうとします。そのあたりの切なさとかつらさが良く表現されていたと感じる作品でした。
個人の敵としてはほぼ最強レベルの敵を退けているのでこれからは組織としての戦い方が表現されるのかもしれません。組織からはみ出した彼と彼女がどう動いて、どのような思いを抱いて、物語としての結末をどう迎えるのかとても期待できる作品です。急がなくてもいいので同じレベルの作品を出して欲しい。