九条菜月 ヴァンピーア

ヴァンピーア―オルデンベルク探偵事務所録 (C・NOVELSファンタジア)

ヴァンピーア―オルデンベルク探偵事務所録 (C・NOVELSファンタジア)

 老成した語り口調がとても良い作品でした。タイトルと前作から主人公の正体はすぐにわかるもののそれはマイナスではなく、薬屋探偵のような異形の探偵物語として面白い作品です。最後の展開も良かった。
 こうしてみると吸血鬼ものの作品は多いなと思います。先日読んだキムハリスンの作品でも触れたようにそれだけ吸血鬼に対する認識が変わってきたのかもしれません。この作品では物語で描かれているような吸血鬼ではなく、血を吸うこともなくただ単に身体能力の優れた存在として描かれていました。それもそれでありかな、と思います。
 続編として書かれた作品ですが前作の登場人物は関係がない、とまではいえないものの「探偵事務所」を軸とした作品であることがわかります。作中ではこの「探偵事務所」は妖精や異形の存在と人間の関係を取り持つ役割で大きな位置を占めているようで、これからもいろんな存在が出てきたり、どのように溶け込んでいるのか、溶け込まないでいるのかが描かれそうでとても楽しみ。ここでの彼らの人間社会への溶け込み方というか、吸血鬼ハンターDのような混血の存在はあまりないみたいです。強く彼らの影響を受けた存在、つまり異形の血が突然顕現したような形になるのでしょうか。普通ではない存在として生を受けることでの周りとの違和感が描かれるのですが、これは、ここまで特別な存在ではなくても周りとの間に違和感を持ってしまう人がいることを考えるきっかけになります。そこまで深刻な話ではなくて、娯楽小説でしょうから単純に楽しもうと思いますが、いろいろと考えるきっかけになればいいなと思って続刊を期待します。