椹野道流 貴族探偵エドワード 瑠璃の涙を流すもの

急変した先輩が実は悪魔に取り付かれていたという、ファンタジィではよくある話ですが、作者はよくある話を上手に料理するので面白く読めます。登場人物が増えすぎるとひいきの登場人物があまり出てこなくて残念、となるのですが、主要な面々に代わりはなく、今回は特にほとんど全員が活躍するという贅沢な展開でした(その分あとがきが短かったのですが)。
時折説教くさい話になるもののほとんどそれを感じさせないあたり、少年少女向けの小説を長く書いている人の実力を感じます。そんな話のひとつですが、欲を持たない、ということは難しいというよりもほとんど不可能に近い。今回無欲であることを認められた人がいます。その人は精霊の力を得るのですが、精霊に力を行使するときに「欲」はないのかというと難しい。私利私欲がない、とならわかるのですが、ほかの人を助けたいと思うことも欲のひとつだと思うので、完全に無欲というのはありえないでしょう。作品に文句があるのではなくて、無欲とは何だろうとふと考えただけです。
せっかく登場した「一緒に探偵ができそうな女性」も残念ながらともに探偵活動をすることはなさそうで、しばらくは男所帯が続きそうです。年齢不詳の占い師や料理をしてくれる女性がいますし、それらが探偵活動に入らないとは言いませんが、一緒に外で活動する女性がいてもいいかな、と思います。まあ、古風な刑事さんもいることですし、ちょっと難しいかもしれませんが。
今回は深刻な場面が多かったので、次回はほのぼのした展開だそうです。それはそれで楽しみ。シーヴァって今回の昔話を聞いても、本人がどう考えているかはともかく、結構不遇な青春を過ごしているのではないでしょうか。もちろん彼がからかわれる場面があるでしょうが、それも彼の幸せを願ってのことですし、うまくいかせてやって欲しいところです。