手島史詞 沙の園に歌って

沙(すな)の園に唄って (富士見ファンタジア文庫)

沙(すな)の園に唄って (富士見ファンタジア文庫)

 「量産型はダテじゃない」と同時にファンタジア大賞の佳作を受賞した作品です。こちらはいかにもファンタジア文庫の受賞作らしい作品です。どことなく前回の細音啓さんの作品に似通ったものを感じます。ファンタジア文庫らしい、と言うのは否定するものではなくて、結構好きな作風です。言葉が力を持つと言う点で細音さんの作品に似たものを感じたのかもしれません。
 物語はあらすじを書いてしまえばものすごく陳腐になってしまい、実際に読んでもそれほど目新しいことはありません。それでも面白く読めたのは登場するキャラクタに魅力があって、話にもリズム感があったからではないでしょうか。受賞作はどうしてもいろいろと詰め込んでしまうのでせっかく登場したのにあまり活躍する場面がなかったり、出てくる意味があまりなかったりすることも多い。この作品もそれに違わず、今後登場するからそれでいいのかな、と思わないでもないですが一冊できれいにまとまった作品も読みたいところです。誰もが受賞後に続編を書くつもりで書いているのではなくておそらく編集部の意向なのでしょうが、こういった小細工をすることでデビュー作のシリーズばかりたくさん刊行されて他の作品があまり出ない新人作家が増えているのではないでしょうか。もちろん、自分たちの所で受賞するのだからしばらくはそこで書いてほしいでしょうし、それでも売れると見込んでいるからこその受賞なのでしょうか、腑に落ちないというか、内面に物語が渦巻いているような作家さんも何人かに一人はいると思うのでもったいないような気もします。
 とりあえず、この作者は気に入ったのでしばらくは購入する予定。できれば他の世界を舞台にした作品を書いてほしい。また、これまで見た事のある設定がはいるのは当然で仕方がないとしても、何かひとつきらりと光るオリジナリティを見せてほしいと思います。次回作に期待。