恩田陸 木洩れ日に泳ぐ魚

木洩れ日に泳ぐ魚

木洩れ日に泳ぐ魚

 最近の恩田陸作品は舞台や演劇を意識しているのか、そのまま舞台の作品になってしまいそうな物が多いような気がします。本作は二人舞台ができそうな作品でした。
 物語の舞台は引越しを決めた二人が最後にすごす部屋。回想する場面はそこかしこにあるものの、ほとんど部屋から動くことはありません。兄妹である主人公の二人は、見たこともない父親に会いに山登りを計画します。しっかりとした根を持とうとしない父親は、兄妹の母親とは上手くいきませんでしたが、山登りの案内をしているうちに若い妻を持つことになりました。その父親が不慮の事故でなくなってしまうのですが、お互いに相手を疑っている、という話です。
 少しずつ記憶が戻ってくるのは少々都合が良すぎる気もしましたが、記憶なんてどんなきっかけで戻るかどうかわかりません。あまり登場人物に共感できなかったのは思考回路が今ひとつ異なるからかと思っていましたが、終盤まで読んで理由が自覚できました。まあ、ここではその理由は書きません。
 誰かに恋することからは遠く離れてしまっていますが、困難に直面することで惹かれてしまうことはあるかもしれません。実際には劇的な人生に縁がないので良くわからないといえばわからないのですが、なんとなく想像はできます。
 今回は少し消化不良気味でした。何か実験的な作品なのかな、と感じる作品です。もしかして、いろんな作風の作品を書いて、どんなものが書けるのか、どんなものがうけるのかを試行錯誤しているのかもしれません。ある意味「恩田陸」風の作品は完成されているともいえますが、逆に言えば似たような作風が続いてしまい、本人としては閉塞感があるのかもしれません。ものすごい読書量の方ですし、そこから新たに創り出す作品は良作ぞろいです。今回も消化不良ではあってもはずれではない作品です。期待されているものを書くのが良いのか、書きたいものを書くことが良いのかはわかりません。読者としては前者も期待しているし、後者も期待しています。わがままな読者の心を捉えたままどこまで行けるのか。今後も恩田陸に期待しています。そういえば、カバーが良い作品でした。作品のイメージとは少し異なりますが、タイトルとはあっている印象です。