本多孝好 正義のミカタ

正義のミカタ―I’m a loser

正義のミカタ―I’m a loser

いじめられっ子だった青年は大学に入ることで何かが変わる事を期待していた。在籍していた高校からは考えられないことに、高校時代のいじめっ子が同じ大学にいた。絶望しかけた時、助けてくれたのは正義の味方研究部。青年は、縁あってその部に入部することになった。
本多孝好さんの新作です。これまで死を扱った、静謐な文章だったのですが、気分一新でしょうか。読みやすさはこれまでと変わらないので厚さはあってもとても読みやすい作品です。キャラクタがライトノベルのようなキャラクタだったので少し驚きました。
タイトルの正義のミカタ、は味方と見方なのでしょう。作中で何が正義なのか、「悪」をどう扱えばいいのかに触れています。正義の味方だと思えば気分はいいだろうし、感謝する人がいれば行動する動機にもなります。ただ、同じ世代の人間で、同じ大学にいる人間が公平に何かを裁くことができるのでしょうか。どうしても上から目線と言うか、同じ視点から見ることは難しい。主人公も同じようなことを感じるし、作品の終盤ではこれまで絶対的な視点を持っていると思われていた部長が豹変してしまいます。立場が変われば正義も変わってしまうかもしれない、力のあるものが正義となってしまうのかもしれない。大学のいざこざ程度ならまだ判断に迷うことは少ないかもしれませんが、何が正しくて何が間違っているのかを判断するのはとても難しい。
お金を搾取する仕組みを考えたり、実際に実行したりする悪役が登場します。彼は、誰も困っていないのだからかまわない、と言い切ります。ただ、彼の想像力が行き着く範囲が結構限られているかな、と感じました。影響を及ぼせる範囲までしか考えていない、ともいえますが。
この悪役の処理もありますが、主人公の行動を考えてもこの作品だけで完結しているとは思えません。少なくとも後2、3作は続くのではないでしょうか。続いて欲しい、と言う期待をこめてここに書いておきます。