うえお久光 ジャストボイルド・オ’クロック

 これまでうえお久光の作品は全て読んでいると思うのですが、最近では文体で解るようになってきました。まあ、匿名で出版されてもわかる、と言うレベルでは(読者として)ありませんが、オリジナリティを感じさせる文体はとてもよいと思います。
 作品は、遠い未来、家電と人間がつながっている時代のお話。世界設定を受け入れるまでに多少時間がかかりましたが、ヒーローものの王道と言ってもいい展開で、とても楽しく読めました。ただ、「感情を持つ」家電が登場するのですが、瀬名秀明さんと同じレベルで感情とは何か、と追求していくと齟齬が感じられるかもしれません。少しだけ内容に触れると感情を持つ家電は全部で7体あるそうですが、一読した限りでは結構他の家電も簡単に感情を持てそうな雰囲気で、特殊性が感じられません。感情を持つことを特別な位置づけにしているのなら、他の家電との境目は何なのか、何ができるから「感情をもつ」といえるのかをもう少しはっきりさせたほうがいいと感じました。ライトノベルの位置づけで話すならばそこまで複雑にする必要は無いのかもしれませんが、少年少女が読んだとき、ロボットや機械に対する興味を持てるようにすることも、ある意味ライトノベルの活躍できる分野だと思います。
 あとは登場人物が若すぎるでしょうか。これもライトノベルなので、と考えると対象にしている読者からあまりにも離れていると受け入れられにくいのかもしれません。ハードボイルドではなくてジャストボイルド、と謳ってみても「ハードボイルド」に生きるには若すぎるだけとの印象を受ける人がいるかもしれないな、と思いました。まあ、本文にもあったようにジャストボイルドもいろいろと大変そうなのであまり気にするポイントではないでしょう。
 あとがきにはこれで完結しているとありますが、まだまだ登場していないキャラクタや、殆ど活躍していないキャラクタがいるのでおそらく続編も出るでしょう。シリーズをいくつも抱えて大丈夫なのか、と思わないでもないですが、のんびり待とうと思います。