植芝理一 謎の彼女X

謎の彼女X(1) (アフタヌーンKC)

謎の彼女X(1) (アフタヌーンKC)

これまでも植芝理一の作品は読んでいて、絵柄と不思議なストーリィが好みだったのですが、今回はさらに不思議な話です。思春期の男女にとってお互いは謎の存在かもしれません。個人個人で成長速度が異なり、顕著にそれが現れる時期です。あのころ、どうだったかな、と思い出そうとするのですが、かなりの年月がたってしまっているので、出来事は覚えていてもそのときどんな感覚だったのかはリアルに思い出すことができません。そういった意味では、漫画家や小説家は当時の記憶だけではなく、感覚も保有しているのだな、と思います。
主人公の少年、椿明はとても素直で、高校生らしいといえばとてもらしいです。異性にも興味を持っているし、その方向性もとても健全なものだと感じます。もう一人の主人公、卜部美琴は転校してきたその日から寝てばかり。女生徒の昼食の誘いも眠いからといって断り、授業中に爆笑する不思議ちゃんです。
この彼女と明をつなぐものは"唾液"。作中ではよだれと表記されていますが、彼女が口に含んだ指をなめるのが明の日課となってしまいます(理由は読んでいただけたら、と思います)。このほかに明と美琴の間に直接的な行為はないのですが、この唾液の交換(ではなく移動というか摂取というか)がとてもエロティックです。
このほかにも美琴には妙な特技があったり、本当に謎のままです。でも、どうやったらこんな人格が形成されるのだろう、とか考えてはいけません。特異なキャラクタではあるものの純粋で、自分のルールを持っている彼女を受け入れられるのなら、この作品を楽しめるのではないでしょうか。好きな場面は、見知らぬ町で彼女と踊る場面です。一瞬で流されてしまいそうな場面なのに尋常ではない書き込みの量で、隅から隅までつい見入ってしまいます。この世界観はこれまでの作品に共通のものですが、とても好きです。ディスコミュニケーションの後に連載された夢使いは読んでいなかったのですが、久々に植芝理一の世界観を楽しもうと思います。