日本橋ヨヲコ バシズム

バシズム 日本橋ヨヲコ短扁集 (KCデラックス ヤングマガジン)

バシズム 日本橋ヨヲコ短扁集 (KCデラックス ヤングマガジン)

 大好きな漫画家である日本橋ヨヲコさんの短編集です。大好きと言う割りにこれまであまり彼女の作品を読んだことはあまりありません。理由は、早く全部を読んでしまうのがもったいないと思っているからです。だから、少しずつ読破していきたいと思っています。

  • ストライク シンデレラ アウト

 若い頃は特に見た目を気にしがちです。それぞれの才能の片鱗は見せ始めているのですが、それを理解できる人は意外に少ない。美醜と言うのは解りやすい。だからこそ若い頃はそれに左右されてしまい、悪くすれば後々まで引きずってしまいます。主人公は見た目がかわいらしく陸上の才能も併せ持った少女です。彼女は自分の価値を陸上にしか見出せず、だから、挫折したときの自分に対する失望感も大きい。周囲だけではなく、自分自身が寄せていた期待も大きい分、挫折感も大きいのでしょう。持っていないものの強みと言うのもあるかもしれませんが、彼女を支えようとする少年の純粋さがまぶしく、鋭く、痛々しいほどです。ある程度年を経れば解ることですが、世間はそれほど辛いものではなく、現実は若者にもそんなに厳しくない。最後の場面では、柄にも無くじんとしてしまいました。傑作。

  • ノイズ・キャンセラー

デビュー作のようです。ここに日本橋ヨヲコさんの原点があると言っても良いでしょう。まだ削り方や鋭さにかける部分もありますが、今の作品に通じるものがあります。

  • バング スタイル ア ゴーゴー

こんな学校だったら通うのも楽しかったのかもしれません。自分の所属する場が楽しいかどうかは自分自身が決めることなのかもしれませんが、そのための努力を怠らない御手洗君はやはり魅力的な人物なのでしょう。それを見抜く五反田さんも素敵です。

  • id イド

学園ものが多い日本橋ヨヲコさんにとっては珍しくSF作品です。それでも彼女の本質からぶれることは無くて、未来に希望を持つ若者が素敵です。これほど素直な学生も、きっとまだいるのでしょう。「生きる目的なんて何でもいいやん」と言う言葉に少し感動。

最初のカラーページに全てがあります。つらい現状からそれぞれが選んだ生き方。それは誰にも非難されるものではなく、自分にあったスタイルと言ってもいいのかもしれません。相反する生き方を選んだ二人。二人がであって、新しい生き方を選択するところが素敵です。

  • CORE〈コア〉

最後のページで少女が見せる表情がすばらしい。新作とのことですが、いつまでこの感性を保てるのだと、日本橋ヨヲコさんをまた好きになりました。

  • ギアボイス

自信が無ければあいまいな言葉で濁してしまってもいいのだろうか。ここで登場する若者は常に自信が無く、不安に揺れています。そんな若者が好きです。根拠の無い自信を持つ若者もそれはそれで魅力的かもしれませんが、悩んで悩んで、それでも自分なりの答えを見つけ出すところがとても良い。先生も、きっと彼以外からいろいろとコンタクトはあったでしょうが、少年の本気に本気で答えています。真っ向から受け止められるのもある意味若さかもしれません。どちらも真剣勝負。それが良い。

死ぬことに恐怖は無くても、きっと死ぬ瞬間は怖いだろうな、と思います。静かに受け止められるようになるまでどれほどの葛藤があったのかを想像すると、彼の強さが改めて感じられます。とても美しく、静かで悲しい話。