恩田陸 チョコレートコスモス

チョコレートコスモス

チョコレートコスモス

 著名な映画監督である芹沢泰次郎が舞台に復帰するとの噂が流れた。その舞台のオーディションは水面下で進行していた。内容は、女性二人によって演じられるもの、と言うこと以外明らかにされていない。それすらも噂によるもので、誰がオーディションを受けたのか、その内容は何なのかも謎に満ちていた。一家全員が役者の家庭で育った響子は、決められたレールの上を順調に進んでいたが、役者の面白さを知る一方で、このままでいいのかと疑問を抱く。そして、彼女自身でも意外なことに芹沢の手がける作品に参加したいと言う思いが強くなる。舞台や演技にかける想いを役者や脚本家の視点から描いた物語。
 舞台を見たことが無く、それらの知識がかけていることがとても残念に思えました。もし、もっと詳しければもっと没入できたでしょうし、もっと楽しめたのではないかと思います。それでも、役者が与えられた役になりきろうとする場面や、脚本の解釈を自分なりにどうするか悩む場面は興味深い。
 主人公の一人である飛鳥はクールな性格で、主観で物事を見ています。役者になるためには物語を把握しなければいけない、と思うのですがそのあたりの訓練の描写はありませんでした。映画を見れば自然とわかるようになるのでしょうか。抱いているイメージとしては映画でも舞台でも創作にかかわる人は総じて文学などの知識量が豊富だと言うものがあったのですが、必ずしもそうではないのかもしれません。物語の後半に同一の脚本に対してどう表現するかを競い合う場面があったのですが、その場面はある物語の一幕を抜粋したものでした。もちろん、脚本を読んで理解できれば良いとの意見もあるのでしょうが、全体を知らないとわからない部分もあるのではないかと思います。そして、飛鳥はその知識を持っていないのではないか、と感じました。
 物語全体の印象としては、大きな物語が動き出した感じで、これからもっと話があるのではないか、と思いました。最近の恩田陸作品では良くある傾向ですが、きっちりと終わらせるのではなく、想像の余地を大幅に残した終わり方でした。それにしても、今回は続編があるのではないかと思えます。同じテーマをどのように解釈するか、競作の場面が圧巻でしたが、もっとたくさん読みたいな、と思います。