桂 望実 県庁の星

県庁の星

県庁の星

 県庁の、民間との交流をアピールするための企画で、スーパに研修することになった聡。県庁内ではエリートコースを進む彼が赴いたスーパは、マニュアルも、組織だった連絡経路も無く、消費期限切れの材料を惣菜に使う悪辣ぶりだった。それでも、成果をあげなかったり、途中で辞退すると庁内での評価が下がってしまうため、聡なりにより良くしようと努力する。しかし、役所と民間では視点が異なるため、努力も空回りに終わってしまう。このまま何もできずに終わってしまうのか、それとも……。
 映画化されるので、うっかりCMを見る前に読んでしまおうと、あわてて読み始めました。役人と民間の差がこれほどあるかどうかはわかりませんが、エンターテインメント小説なのでそのあたりはかまわないと思います。多分、スーパの主が柴崎コウの役柄だと思います。経験があってこその役柄だと思うのですが、どのように設定するのでしょうか。同じことを言われたとしても、長年経験を積んできた人から言われることと、2、3年勤めただけの人に言われるのでは重みが違うと思います。もちろん、真っ当なことを言っているのなら年齢は関係ないのですが。
 終盤に向けて明かされる事実に、ここまでしなくてもいいのにな、と言う印象ですが、映像化を前提としているのならこれもありかも、と思います。もう少し話の分量が多くてもかまわないのですが、本好きの感想であり、普段あまり本を読まない人にとってはこれくらいがちょうどいいのかもしれません。
 読後感が良かったのは聡が素直なところにあったのではないかと思います。エリート意識に凝り固まって、自分に見合った女性ではないとか発言する聡ですが、まじめに企画も提案しますし、悪いときがついたら素直に直そうとします。この素直さは貴重かも。もともとはそれほどエリート意識を持っていたわけではなく、ただ、素直なだけに流されやすく、県庁での同僚に染められただけでは、と想像します。それに、スーパの従業員たちが「県庁から来た」ことに偏見を持っていたことも、うまくいかなかった理由ではあると思います。期間限定だから、なじみ難かった。期間限定だから、思いをぶちまけることができた。両方あると思います。まあ、そんな面倒なことを考えずに、ただの娯楽小説として楽しめばいいのではないかと思います。