- 作者: 佐藤賢一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/01
- メディア: 単行本
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「三銃士」や「モンテクリスト伯」が有名な文豪、アレクサンドル・デュマの生涯を描いた作品です。佐藤賢一さんの作品は女性を蔑ろにすると評価されることが多いように感じます。確かに「傭兵ピエール」や「双頭の鷲」ではそう言ったきらいもあるかもしれません。でも、それは佐藤賢一さんの考えであるのではなく、当時がそう言った時代であったことを表現しているのだと感じます。
本作でも、主人公が破天荒な文豪と言うこともあって翻弄される女性が多数出てきます。しかし、今回は舞台に採用されようと自ら接近してきた女性や、デュマの魅力に惹かれた女性がほとんどなのでそれほど嫌悪感は感じないかもしれません。
作品は、とても面白かった。佐藤賢一らしさを失わず、中世を生き生きと描いており、中世ヨーロッパが好きなことを差し引いても面白い作品だったと言えます。ライバルとして、ヴィクトル・ユゴーが登場しますが、彼はまじめな性格で描かれており、大衆小説を書いたデュマに売り上げでは大きく引き離されてしまいます。識字率が上がり始めたころだから、というわけではないのでしょうが、やはり多くの部数を売り上げるためには小難しい本よりも娯楽小説のほうが売れるのかもしれません。
ユゴーの作品は「ああ無情」ぐらいしか読んだことがありません。もともと古典には疎いほうなのでデュマも「三銃士」ぐらいしか読んだことがありません。どちらも後世に残る偉大な作家ですし、引け目を感じる必要は無いのでしょうが、作品にコントラストを持たせるために卑屈な性格にしたのでしょう。Wikipediaで見る限り、デュマよりもユゴーの方が格好良いと思うのですが、やはり性格がものを言うのでしょうか。
当時は工房のようなスタイルで、下書きをした作家と共著の形にすることが多かったのでしょうか。多作で居続けるためには仕方が無いのかもしれません。冲方丁さんが提唱しているスタイルも近いような気がしますが、得意分野があるのならばそれを生かしつつ伸ばしたほうが良いと思います。
小説の主人公であるからには特異な性質を持っている場合が多いと思います。特に、佐藤賢一さんの作品では生命力にあふれた主人公が多い。どちらかというとあまり活動的ではないので、そう言った点に惹かれるのかも、と思います。
前作の「黒い悪魔」では父親のアレクサンドル・デュマが主人公でした。本作もとても面白く読めましたが、佐藤賢一さんは軍人を描いたほうが生き生きとした作品になるのではないかとも感じます。特に、脇役の描き方を見るとそう感じます。初めて佐藤賢一さんの作品を読んだのは「傭兵ピエール」で、それにすっかりはまってしまったので全作読んでいます。「カポネ」はすでに購入済みなのですが、まだ読んでいません。やはり最初の印象が強いのか、一番好きな作品は「傭兵ピエール」です。続いて「双頭の鷲」、「王妃の離婚」、「黒い悪魔」…。このあたりは甲乙つけがたいです。というよりも、若干落ちるのが「オクシタニア」、「カエサルを撃て」でしょうか。後はどれもかなり面白い作品だと思います。
まだまだこの時代には魅力的な主人公となりうる人がいるのでしょうか。歴史には疎いのでそのあたりよくわかりません。藤本ひとみさんのように、歴史に残らなかったため知られなかった、と言う架空の人物でも面白いと思います。ちなみに「ハプスブルグの宝剣」も好きな作品です。少々宝塚のような雰囲気もありますが。