森橋ビンゴ、川上亮、緋野莉月 青春時計

青春時計 (富士見ミステリー文庫)

青春時計 (富士見ミステリー文庫)





 聖司と駿介の通う田舎町の高校には壊れて、もう動かない時計台があった。春休みのある日、聖司と駿介は、時計台を設計した人物の孫である慧という少女に出会う。彼らは深夜の校舎に忍び込み、時計台を修理しようと試みる。駿介はかつて慧と共に遊んでいた過去を思い出し、慧に惹かれていることを自覚する。その前に聖司から慧のことが好きだと聞かされていた駿介はかすかな罪悪感を抱えつつ慧に接近する。一方、慧は彼らに好意を抱きつつも義兄弟に対する思いも自覚しており、曖昧な態度で彼らと接していた・・・。
 競作(共作?)であることを感じさせない内容で、著者それぞれが抱くキャラクタ像にぶれがないことが感じられました。書かれていなければひとりの著者と言われても気がつかなかったと思います。視点を著者ごとに入れ替えていることが上手く作用している作品です。
 イラストは悪魔のミカタ藤田香さんかと思いましたが違う方でした。可愛らしいイラストが「青春」をテーマにした内容にあっていたと思います。こういった小説でイラストが左側に書かれていることが多いのは、絵は右脳でみるからだという話をどこかで聞いたことがあるのですが、確かに、右側に配置されたイラストでも左目で見ていることを自覚します。違和感があるだけかもしれませんが読書中に視線が移動したので、そのことを思い出しました。
 内容は、10代後半の少年少女たちが力をあわせてひとつのことを成し遂げると言う、王道といえば王道の内容ですが、子供だから出来ないことがあるもどかしさと将来に対する期待や不安が描かれていて、好感が持てました。青春小説というジャンルがあるのかないのかは知りませんが、この手の小説が好きなのは、あまり中学高校と目覚しい思い出が無いからです。どちらも体育祭や文化祭に力を入れる学校ではなかったのでそれらのイベントはおざなりに過ごしました。高校生の時は出来ないことにいらいらしており、早く大人になりたいと思ったものです。大人になった今(自分で稼ぐようになったという意味ですが)では、その頃に戻りたいとは思わないものの、学園祭などで盛り上がるのは結構憧れます。過ぎてしまった時間に憧れるというのも変な話ですが、かつて成し得なかったものに対して羨ましく思っているのかもしれません。だからこそ、こういう秘密のイベントやどきどきしている少年少女の物語が好きなのだな、と自己分析。
 慧は自分のしでかした不始末から退学してしまうのですが、叔母に世話になっている身で退学できる自分勝手さが少し恐ろしい。このままでは自分を偽った人生を送ってしまう、と思ったのでしょうか。その後努力することは立派ですが、慧を信じ、好きなようにさせた叔父と叔母の度量が素晴らしい、と大人視点で思ってしまいました。
 聖司が時計台に残した物。それは未読の方のためにとっておきますが、青春時代に記憶に残る物があるということは、将来どのような形でも支えになると思います。