久住四季 トリックスターズL

 科学が高度に成長した社会では受け入れられにくい学問、魔学。日本は魔学の発達が遅れている国だが、唯一魔学を専門的に学ぶ大学がある。その大学、翠城大学の魔学部教授を務めるのは世界に6人しかいないという魔術師の6番目、佐杏冴奈。佐杏の教え子である天乃原周は魔学の実験につき合わされ、研究施設へと向かう。そこに登場したのは5番目の魔術師、サイモン・L・スミスクラインだった。彼と佐杏で行った実験は失敗に終わり、その後、密室であるはずの研究施設内で殺人事件が起きた。動機は、方法は、そして犯人は誰なのか・・・。
 前作トリックスターズの続編です。周のイラストがないのは今回も同様で、前作を読んでいる身としては、もうその手の表記はいりませんよう、とお腹いっぱい。それはともかく、新しい学問である魔学という分野を考え、それを利用したトリックは良いと思います。
 魔学は論理的で現実的であると周は言います。まあ、魔学自体に関しては突っ込みどころに満ち溢れていてあまり突っ込もうとも思いませんが、論理的だというのならばきっと、小説世界では論理的なのでしょう。
 今回も他のゼミ仲間が登場せず、一体何のために出てきているのやら、と思う次第。きっと以降の作品で活躍する機会があるのでしょう。とは言うものの、このシリーズはあまりこれ以上広げなくてもいいかな、と思っています。
 以下内容に触れるため隠します。


 物語の終盤で周がとんでもない推理を披露するのですが、これを鵜呑みにする警察って一体・・・。あまりにも警察を馬鹿な設定にするのはリアリティを失ってしまうのでやめたほうがいいと思います。これで、ああ、なるほど、と思った読者は殆どいないでしょう。犯人もこの手の小説をいくつか読んだことがある読者なら周の解説を聞いているときには既に判っていたと思います。ただ、序盤でこれを全て見透かしていたのなら佐杏は恐ろしく優れた能力を持っていることになります。
 更に真相を明かすために、佐杏はもう一度実験を繰り返します。そこで明かされた内容で違和感を覚えたので全部読み終えてから冒頭の、というか序盤の文章を読み返しました。サイモンはある目的のために実験を行おうとしていたのですが、その設定っておかしくないかなあ。優れた人を演出するために周囲をあまりにも馬鹿に設定することは好ましくありません。これでは”オズ”はかなりのお馬鹿集団ということになってしまいます。自己申告を鵜呑みですか?妹は当時3歳ですよ?おかしくありませんか?
 繰り返しますが、この世界では権力を有している集団があまりにも馬鹿に描かれているためリアリティが失われています。ここで言うリアリティとは小説内の世界におけるリアリティのことで、必ずしも現実に即している必要はありません。
 文章自体は嫌いではなく、読みやすいので、今後は別の小説を書いたほうがいいと思います。あと、自分が考えた設定に思い入れがあることはわかりますが、天才を演出するためにはやはり圧倒的な能力を見せ付ける必要があると思います。