恩田陸 ネクロポリス

ネクロポリス 上ネクロポリス 下



 大学で民俗学を研究しているジュンは日本と英国の文化が入り混じった特別な街、V.ファーへの入国が許可された。血縁者しか入れないV.ファーだが、幸運なことに遠縁の親戚が関係者だったためだ。比較的近い血縁関係のハナやマリコ、リンデとV.ファーへ向かったジュン。V.ファーが特別なのは、「お客さん」と呼ばれる死者が当然のように存在する街だからであり、突然亡くなったものとは、ここで改めて別れを交わすことが出来る。しかし、誰もが「お客さん」に会えるわけではなく、ここにしか適用されないルールや風習がある。胸を高鳴らせてV.ファーのアナザー・ヒルに到着したジュン。そこで起きた出来事とは・・・。
 恩田陸さんらしい世界観で、いろいろなルールが(後から判ることが多いものの)面白い作品です。恩田さんの作品には良く話す女性がたくさん出てきますね。本人も良く話される方なのでしょうか。頭の回転が遅く、しばらく考えてからしか発言できないので、こういったテンポのいい会話の中には加わることが出来なさそうです。
 物語の始まりはこの世界の説明に費やされますが、ただの説明ではなく、何も知らない東大生のジュンが疑問を投げかけていくことで次第に世界観がつかめてきます。さすがは恩田陸、と思わせるストーリィ・テラーぶりで堪能しました。
 不可思議な世界にも一定のルールがあって、その中で犯人を想像するというのもなかなか楽しい作業です。実際の英国人がこれほど議論好きなのかどうかは知りませんが、ハナやマリコ、リンデが議論する様は読んでいてとても楽しいです。彼女たちは自分の考えを示すためならたとえ相手が教授であろうが博士であろうが構いません。それぞれに個性がありますが、恩田さんの作品では中年女性がしたたかでたくましく描かれています。確かに中年女性は強い、と思う機会も多く、恩田さんの性格が投影されている部分もあるかもしれません。
 事件がいくつか起きて、その真相を登場人物とともに考えるました。何かを考え付いたとしても、そんな都合の良い予想は合ってないだろうな、とか考えながら読んでいましたが、少しだけ予想通りの部分があってびっくり。半分いんちきだな、と思って予想していたので驚きました。物語は最近の恩田作品にしては珍しく、それなりの結末が用意されていました。最近結末に少し不満があったので、この点でも大満足です。
 アナザー・ヒルでは日本の文化と英国の文化が融合していて、たまに意味が逆になっているものもあるのがこれまた楽しい。どんな文化かはこれから読む人のために控えておきましょう。
 恩田陸さんの作品では本当に女性が強く描かれていますが、その分男性陣が弱くみえるのは仕方がないのでしょうか。ジュンは東大生の割には何かに気がつきそうで気がつかないし、気になったこともそのまま流してしまうところがありました。まさにそう思っていた終盤、そのことをジュンが自覚するくだりが面白かったです。
 少し内容に触れる部分を隠します。


 以下疑問点。わかった方は是非、ご教授お願いします。
 ・ブラッディ・ジャックは自主制作の詩集をだしにして、それを読みふけっている間に殺害していました。その方法をとるためにはいくら本好きの国民性とは言え、関連した個人情報を入手する必要があると作中での犯人像からはその手段がわかりませんでした。
 ・ジュンの彼女である苑子は全く登場しなかったのですが、恩田作品のどこかでこの名前を聞いたことがあるような気がします。何かとリンクしているのかな?
 ・犯人は脅されて協力したのですが、それにしては終盤悪そうな性格になっていました。どうしてなのでしょうか。