瀬名秀明 デカルトの密室

デカルトの密室

デカルトの密室





 AIの完成度を競うチューリング・プライズに参加した尾形祐輔。彼の前に現れたのは10数年前に死亡したと伝えられた天才科学者であるフランシーヌ・オハラ。彼女のそばには本物かと見間違えるほどの外見的完成度の「人形(ドリー)」がいた。フランシーヌからゲームの提案を受けた祐輔はそのゲームに参加する。直後、行方不明となった祐輔を探しに動いたのは祐輔が成長させている最中のAIを搭載したロボットであるケンイチ。ケンイチは捜索途中、ある「問題」に遭遇し混乱する。そして彼が取った行動は・・・。
 作中、ある登場人物の台詞に「物語とは世界を作者の世界観によって切り取ることに他ならない」とあるように、この本は瀬名さんのロボットに関する感覚が大いに反映された作品だと思いました。作中いろいろと考えてしまうことが多く、何度か中断してしまいましたが、決して内容に問題があるわけではなく、様々なことを考えるきっかけを提示しており、優れた作品だと思います。
 ロボットは果たして自我を持ちうるのか。そもそも自我とは何なのか。世界観とは、物語とは・・・。本当にいろいろなことを考えました。でも、作品にこめられた内容の密度が高すぎて現段階では考えがまとまらず、それらに対する感想を書くことは出来ません。
 物語は現在より若干先にある未来です。この中でどれが現実的でどれが非現実的なのかロボットに関する知識が無いため判断は出来ませんが、「起こりうるかもしれない」と思わせる世界を築いた瀬名さんの筆力はすごいと思えます。パラサイトイヴの時から感じていましたが、馴染みの無いジャンルでも読み進めることが出来る、とても読みやすい文章です。瀬名さんはあちこちで対談などなされているようですが、科学を啓蒙する才能に秀でていると思います。もちろん科学に対する愛情が前提であり、瀬名さんの文章からはそれがひしひしと感じられます。
 本作に関しては内容を理解できたのかどうか、自信がありません。いつか再読しようと思います。