森博嗣さんのシリーズ物。装丁が本当に美しい。順番に青空、夕焼け、曇り空となっています。森さんのシリーズ物はどこかでつながっていることが多いため、このシリーズもどこかで繋がっているかも、と思いながら読んでいます。真賀田四季が出てきて欲しいのですが、どうなるでしょうか。
- 「スカイ・クロラ」 Sky Crawler
僕はまだ子供で、
ときどき、
右手が人を殺す。
その代わり、
誰かの右手が、
僕を殺してくれるだろう。
(表紙より引用)
サリンジャーの引用がとても効果的です。森さんは一度読んだ本は覚えていらっしゃるそうですが、羨ましい能力ですね。エルロンやラダーなど良くわからない単語が出てきて、そこだけ著者が表現するものをイメージしきれていない感覚はありましたがあまり気にはなりません。「すべてがFになる」でもどんどんコンピュータ用語が出てきましたので、そういう書き方なのでしょう。考えてみれば、時代小説などを読んでも良くわからない単語がかなり出てきますね。最近は検索して調べることも稀にありますが、物語の流れを止めたくないので大抵は流してしまいます(読了後に調べることは良くありますが)。森さん特有の詩的な表現が気になる方もいるかもしれませんね。
続編が出ていますが、物語としてはスカイ・クロラで完結していると思いました。続編がある物語には、長い物語を中断するタイプと、一つ一つの物語はそこで完結していて、最終的に大きな物語として繋がりがあるタイプがあります。後者はいわゆる連作短編集の一つ一つが長くなった感じです。連作長編集、とでも言うべきでしょうか。森さんの作品は後者ですね。
僕は、
空で
生きているわけではない。
空の底に沈んでいる。ここで生きているんだ。
(表紙より引用)
前作で指揮官だった草薙水素のパイロット時代を描いた物語。
戦闘の描写が前作よりも多く、空中での瞬間を切り取って、クローズアップしたような感覚です。時間の流れは一定ですが、誰しも感じたことがあるように体感的にはかなりの変化があります。それを強調したような感じでしょうか。戦闘機の過渡期であり、円熟を迎えた前時代の技術は新たな局面を迎えます。それを象徴するのが表紙の夕暮れ。朝と夜をつなぐ転換期。乗り物がどう変わろうとも、空で戦う僕たちの周りには、空気しか、ない。物語は続きます。
- 「ダウン・ツ・ヘブン」 Down to Heaven
真っ黒な
澄んだ瞳。
その中に、
空がある。
そこへ堕ちていけるような。
(表紙より引用)
内容としてはナ・バ・テアの続編で、再び草薙水素が主役の物語です。
子供は自由だ、と言えるほど自由ではなく、大人は不自由だ、と言うのは自らその環境を作り出している節があります。戦闘機に乗っていられたらそれでいいと思っていた草薙水素。ひとつしかない命を懸けて空へ赴く草薙は情報戦の側面を見せだした”大人”の戦いに辟易します。それは、上も下もわからない雲の中に飛び込んだような、先の見えない苛立ち。このままどこへ向かうのか。願わくば、元の、不純物の少ない世界へ戻りたい・・・。
真剣な戦いを、大切にしているものを汚されることは耐えがたく、失望してしまいます。大人の不自由を次代の大人にも負わせようとするその精神は、普遍的にあるものかもしれないけれど、理解しがたいものです。続編はどのような形になるのでしょうか。スカイ・クロラで登場したカンナミ・ユーヒチは再登場するのか、水素の●●はどうなるのかなど、楽しみです。装丁も楽しみですね。
長くなってしまいました。一気に書いたのは美しい装丁を並べて見たかったからです。