[読了] 飛 浩隆 グラン・ヴァカンス 廃園の天使




 ヴァーチャルなリゾートを楽しむために作られた、膨大なネットワーク上の街、「夏の区界」。そこでは数多くの人格を有したAIが生活している。利用者の行き来がなくなり、千年もの間停滞していた街にある事件が勃発する。蜘蛛(状の機械型プログラム)が街を侵食し始めたのだ。これまで変わらなかった街に起こる変化は、誰かが何かを目的として起こしたものなのか?侵食を免れたAIたちは自己防衛の対策をとる・・・。
 おそらく生きている間には到達しないであろう、近未来のヴァーチャルリアリティ。数多くのSFで描かれてきたように、AIが人格を持つ日はいつか来るのかもしれません。この作品に登場するAIたちはいずれも人格を有していて、様々な疑問を抱きます。それでもなお、自らの役割を熟知し、役割を果たすAIたち。人格を持つゆえに、初期設定を超えた情報を内包しています。しかし、それらはデジタル化された情報であり、同じくデジタル化された環境との境目が曖昧になってくる、と言う世界を描いているためか、読みながらイメージに酔ってしまうような感覚を覚えました。
 将来AIはここまで人に近づけるのでしょうか?それを見ることが叶わないと思うと残念です。本文は非常に密度の高い文章で、通常の3倍は読了までに時間を要しました。密度が高いと言うよりも、喚起されるイメージを大切にしつつ読み進めたからかもしれません(そのため、イメージに酔いましたが)。著者10年ぶりの作品で、初の長編だそうですが、続きはいつ出るのでしょうか。10年後だったらどうしよう。楽しみなような、不安なような・・・。とても面白かったのですが、想像力を酷使したためか少し疲れました。力量がありすぎるのか、読み手が未熟なのか。おそらく両方ですが、3:7ぐらいと自覚します。中篇集が出ているようなので、ぜひ読みたいと思いますが。もう少し間をおいて読もうと思います。