[読了] 中島たい子 漢方小説

 31歳のたい子は彼に振られて体調を崩す。病院めぐりをした末、たい子は漢方医の元にたどり着く・・・
 えーっと、合いませんでした。以下、好意的な意見では無いので隠します。
 主人公が嫌いなタイプの人間なので冒頭から、ずっと、読み進めるのが大変でした。主人公が始めある事柄に無知でも、その後博学の人間から教えてもらったり、自ら学んだりすることで知識を得ていく、と言うのは小説のひとつの形式だと思います。が、本作は”漢方小説”であるにもかかわらず漢方薬に関して間違った理解をしているように思えました。たとえば、附子の主成分はアコニチンで、猛毒なのですが、作中には”本には毒の成分を抜いてから使うので安全ですと但し書きがしてある”と有ります。確かに弱毒化することはあるかもしれませんが、抜いてしまってどうするのでしょうか?基本的に毒と薬は表裏一体というか、同じものであり、量によって異なるだけです。参考文献がありますが、きちんと読んだのでしょうか。
 また、中医学に関しても、登場人物は馬鹿にするような、懐疑的な意見ばかりが述べられていています。中(国)医学を絶対的に支持するわけでは有りませんが、勘違いと言うか、誤解が多いような気がします(診察の仕方や五行などの考え方、診断方法はあっていると思いますが、それに対して懐疑的であるという印象を受けます)。著者は、実は西洋医学だけが好きなのかもしれません。参考文献は(その著者のためにも)むしろ書かないほうが良かったのでは?少なくともこの作品を読んでから参考文献にあたろうか、と言う気はまったく起きません。
 登場人物でよかったのは若い中医学の先生ぐらいで、内容では”原作つきの作品を映画化するにはより創造性を必要とする”というところぐらいでしょうか。それにしてもこの本、どうしてすばる文学賞を取ったのだろう、と思ってちょっとだけ他の人の感想を読んでみたのですが、おおむね好意的ですね。大勢と意見が異なることはあまり気にしませんが、漢方に馴染みが深いと自称している方でも漢方について詳しく書いてある、と述べていらっしゃることに驚きました。判りやすく書くことと情報量を減らして書く(要約ですらない)ことは違うような気がします。