[読了] 大崎善生 聖の青春

聖の青春 (講談社文庫)

聖の青春 (講談社文庫)




 パイロットフィッシュなど、透明感のある小説を書いている大崎善生さんが、早逝の棋士である村山聖さんの生涯を描いたノンフィクションです。
 幼いころ腎臓病を患った村山聖さんは入院中の時間を紛らわせるために将棋の本に夢中になります。これは、高橋和さんも似た境遇ですね。才能のある子供が、集中して学ぶことでものすごく成長が促されるのかもしれません。村山さんは森さんという師匠に弟子入りします。この森さんがまた傑物で、懐の大きさに感心してしまいました。型にはまった上下関係に固執しないその態度はどれだけ村山聖さんの助けになったことでしょうか。その教育(?)の反面、礼儀を重んじることがなく、歯に衣着せぬ発言をすることから、少なからず相手を不快にさせたことも多かったことと思います。でも、本文中にもあるように森さんは村山聖さんからも多くの物を得たと言っているように、命を欠けてひとつの物事を突き詰める村山さんと接することで得られるものは(特に棋士には)多いのかと思われます。それは、おそらく、彼ら自身と比較して村山さんが将棋にかけているものの大きさを感じ、圧倒されるからだと思います。
 高橋和さんの自伝を読んだときにも思いましたが、家族の愛情の深さを感じます。親には障害を持たせてしまったと言う負い目があるのかも知れませんが、ここでもやはり兄弟の優しさが際立って見えました。村山さん自身も非常に優しい人物で、寄付もたくさんされていたようです。命の儚さと大切さを知っていたからですね。寄付に関しては羽生名人もかなりの額をされていたようで、羽生名人の高潔さが垣間見えました。羽生名人の著書も読んでみたいな、と思います。
 ラスト数十ページはなかなか読み進めることができませんでした。亡くなることが判っている方の物語を読み進めるのはとても悲しかったです。
 もし、村山さんがご存命でしたらどのような人物になっていたでしょうか。棋士や芸人の豪快なエピソードは正直、他人事だと思うからこそ(無神経に)楽しめるのであって、実際にお近づきになりたいとは思いません。村山さんはそれらの人物とはまた違ったタイプになっていたように想像します。