[読了]河原和音 先生! 全20巻

先生! (1) (マーガレットコミックス (2630))

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 高校生の島田響は先生である伊藤に恋している。伊藤はこれまでの経験から女性不信とまではいかないまでも、女性との距離を置いてしまう。真面目に、真剣に伊藤に対して恋心をぶつける響に伊藤もまた真剣に対応しようとする。そして、二人は両思いになるけれど教師と生徒と言う関係から公表することができず、そのため(どちらも)不安になってしまい、すれ違うことも多い。響と伊藤の恋の行く末は・・・。
 あらすじだけを見るとよくある話かもしれませんが、高校生の繊細な感情が表されていて、良作でした。大人は大人の、若者は若者の視点で感情移入できると思います。大人に見える伊藤もまだ20代半ばで悩みはあります。有川浩の「海の底」であったように、更に年配の方から見ればどれも子供なのかもしれません。でも、人はいつの世代でもその世代なりに真剣なのです。最終的に、響たちは将来どうするか、どうなるかなどの結果は作者からは提示されません。それを不満と取るかどうかは人それぞれだと思いますが、恋愛漫画としては十分踏み込んでいたのではないでしょうか。響たちが今の伊藤の年齢になったとき、伊藤たちがどれほど真剣に自分たちのことを考えていたかを知るのかもしれませんね。番外編など、ここまで長くなった作品ではアイデアは溢れるばかりにあるのではないでしょうか。もちろん、それはそれで期待したいのですが、物語とはある時間のある空間を切り取ったものであり、作品として完結している以上、後は読者の想像に任せると言ったスタンスもありかと思います。
 主人公はもちろん響なのですが、周りの登場人物も魅力的です。友人の千草は泣き虫なのですが、自分のことばかりで泣くのではなく、響に同調して泣きます。どれほど友人のことを思えば他人のために泣くことができるでしょうか。同調しやすい人と言うのは確かにいて、また、感情の起伏が激しい人は比較的すぐ泣きます。千草がその手の人間と異なるのは、誰彼かまわず感情移入するのではなく、友人の響だけが特別であるところです。千草は自分の感情に正直で、考えずに行動してしまうところもありますが、深いところで見失ってはいけないものを(本能的かもしれませんが)知っています。惚れっぽいところもありますが、恋人が安定してからはそのような事もなく、一途な模様。不安定な響を支える素敵な友人でした。暴走するのが玉に瑕でしょうか。
 もう一人の友人、浩介は見た目も頭もよく、弓道部では部長を務めるほどの腕前です。が、おそらく自分で思っているほど天才肌ではなく、物事の切り替えが上手いことが作中で上手く表されています。浩介は周りに可愛い友人がいて、他校の可愛い子から告白されるにもかかわらず、彼は教師の中島に夢中です。中島先生もまた過去に囚われて真剣な恋から遠ざかっています。中島先生は本心を殻に閉じ込めてしまい、皮肉的な言動しかできなくなっています。浩介が彼女の魅力に気がついたのは慧眼だったのでしょうか。どうも、最初はただ意地になっていたようにも思えます。彼らの今後についてはあまり示されませんでした。もちろん、年の差と言うのは障害のひとつかもしれませんが、生きているうちにもっと様々なことにぶつかるでしょう。浩介が自分の能力を自覚するのもそのひとつでしたが、前向きな姿勢は好感が持てましたので、艱難辛苦を乗り越えつつも幸せになるといいですね。中島先生のことをもう少し描いて欲しかったかなと言う思いが残りました。
 それにしても伊藤先生、生徒呼び出しすぎ!響だけを頻繁に呼び出していたらあっという間にばれてしまうでしょうからおそらく頻繁に生徒を呼び出していたのでしょうね。若くてかっこいい(きれいな)先生がいる学校っていいですね。どこにあるんだ!そんな学校はあ!ぜえぜえ・・・。


 さて、落ち着きましょう。休み中は長編に挑むつもりでしたが、小説ではなく、漫画に挑戦してしまいました。他の方がどうかは良くわかりませんが、漫画でも小説でも読むためには同じぐらい時間がかかります。小説は文章を追いつつ頭の中で想像を広げていきますが、漫画は見逃してしまいがちな部分があるためなるべく隅々までみてしまうからです。年配の方は漫画だから、とか漫画なんてとおっしゃいますが小説が上で漫画が下だと言う風には感じません。表現方法が異なるだけです。上で小説ではなく漫画に挑戦してしまったと書いたのは、格下のものに手を出してしまったと言うわけではなく、休み前に考えていたことと違ったということです。