[読了] 我孫子武丸 弥勒の掌

弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ)

 腹話術の人形使いが活躍するシリーズの安孫子武丸さんがミステリ・マスターズで書き下ろした作品。数学教師の辻は教え子に手を出してしまい、それがきっかけで妻との関係は冷え切ってしまう。ある日妻は失踪し、不審に思った同じマンションの住人が確認のためか、妻の居場所を問いかける。その住人はある団体に所属しており・・・。
 数学教師の辻と不正を行う刑事、蛯原の場面が(ほぼ)交互に描かれ、事件の真相へと迫ります。ある団体の幹部はとても魅力的な人物(らしい)のですが、人当たりのよさと人のよさは別物だということを改めて思い知ります。弱った人は何がきっかけでドミノ倒しのように悪い方向へ突き進んでしまうかわかりません。これは現実社会でもきっと、そうですね。
 基本的に読書をしているときは騙される視点で読めばそのまま騙されますし、それがむしろ望みでもあります。が、読書歴が長くなるとどうしてもさまざまな可能性をどこかで考えていますね。それ(の一部)があたったとしても、あまりそれにカタルシスを感じることはありません。謎解きが目的ではありませんので。とは言うものの読書中はこの先のストーリィをおぼろげながらも予想してしまいます。今作品はその予想を超える結末でした。一部は予想しておりましたが、そう来るとは思っていませんでした。意外性という部分ではかなり良くできた作品です。ただ、話の流れやキャラクタなど、あまり好みの文体ではありませんでした。赤川次郎さんの読みきり作品を読んだときのような、あっさりした感触でした。好みが分かれてしまっただけで、作品は良作だったと思います。
 以下内容に触れる部分がありますので、背景色にします。
 作品の瑕疵とはなりませんが、少し気になった点というか、引っかかった点を。蛯原とかかわっていたやくざがかなりあっさりしていました。出てきた部分だけを見るとあまり悪人らしくないですね。あと、ジャーナリストがあっさり殺されてしまうのが残念でした。この団体が使う手口は以前何かで見たことがあります。情報を得る手段が向上してきている今、実際にこれくらいしているところもあるかもしれませんね。