[読了]有川浩 海の底

海の底

海の底





 祭典が行われていた横須賀に怪物が現れた。それは、巨大な甲殻類。逃亡中に潜水艦に逃げ込んだ自衛隊隊員と祭典に来ていた子供たち。当然現れた甲殻類の正体は?彼らは無事怪物の魔の手を逃れ、生還できるのか・・・。
 空の中に続く、怪物もの。まだ若さの残る自衛隊員と、幼い子供たち。世間的にはまだ子供といわれる世代の隊員たちは、それでも、さらに幼い子供たちを守るため奔走する。子供は残酷です。10代半ばにもなると上下関係を自覚し始める子もいるでしょう。それは、受け入れるべきなのか、反発すべきなのか。幼い精神が、本当はどうするべきかを考え始めたとき、成長は始まるのだと思います。まっとうな考え方を持つ隊員二人ですが、表現方法は異なります。実際に(怪物はともかく)パニックが起きたとき、大人として行動すべき内容は?果たして今考えているとおり行動できるのか。読んでいる最中、考えさせられる作品でした。登場人物それぞれの個性も出ていて、佳作だと思えました。
 甲殻類が地上に現れて果たしてあれほどの動きが可能なのか?という疑問点がありました。昆虫が大きくなると最強などと唱える人もいるようですが、それほど大きくなるとあの構造ではすばやく動けないためあの大きさにとどまっているのです。甲殻類であろうが、それは同じことかと思えますね。前作ではまったくありえないような(それは、決してマイナス材料ではありません)怪物であったためそのことに関して違和感を感じることは無かったのですが、リアリティを追求しようとするとかえってリアリティが失われることもあるのではないでしょうか。つらつらと書きましたが、決してマイナス点と考えているわけではありません。少し気になっただけです。とても良い作品だと思います。次回作はどこに怪物が現れるのでしょうか。まだ作品数が少ないので妙な縛りを自分に課すことはないかと思います。電撃文庫出身の作家ですが、文庫では一冊のみですね。子供にも是非読んでもらいたい作品でした。今後も楽しみです。
 あと、ラストシーンで同じ配属地になる可能性はとても低いはずですが、上層部が考慮してくれたのでしょうか