矢崎在美 ぶたぶたの食卓

ぶたぶたの食卓 (光文社文庫)

ぶたぶたの食卓 (光文社文庫)





動くぬいぐるみ。でも中身はおじさんである山崎ぶたぶた。愛らしい外見と中身のギャップに彼をはじめて見る人は当初戸惑うものの次第に慣れてしまう。彼を通して自分を見つめる、少し傷ついた人たちの物語。
以下、内容を少し紹介。

  • 十三年目の再開

学校を卒業し、社会人として新しい生活が始まる。新天地は祖母の思い出がある土地。そこで見つけた中華料理屋で出会ったのは・・・。自分の気がつかないところで人は何かしらの影響を与えているのかも知れません。それが嫌な影響でなく、誰かの心を暖かくできるものなら、とても素敵なことだと思います。

  • 嘘の効用

ある程度仕事を覚え、手の抜き方だけがうまくなってきている自分に気がついてしまう。突発的に仕事をやめてしまった彼が手習いに始めたのは・・・。誰でもはじめは仕事に対して情熱をある程度持っているのではないでしょうか。その情熱の行き場がなくなってしまった場合、流されてしまう場合、手を抜くことを覚えてしまいます。それでも何とかなってしまう社会。今の自分は何なのか。時々立ち止まって考えてみるのもいいと思います。自分探しなんていうことはやめたほうがいいと思いますが。

  • ここにいてくれる人

精神的に消耗した主人公は神経内科に通い始めますが、周囲の偏見を気にして誰にも言い出せない。病院であった女性もまた同様だが、喫茶店で働き出したという。その勤務先で主人公が出会ったのは・・・。きちんとしている人、そうであろうとしている人ほど些細な出来事で躓いてしまうのかもしれません。今までの自分と違う。元に戻らなければ。焦りが先行してどんどん元の自分(あるいは理想)から離れてしまいます。肉体が消耗品である以上、人は変わらずにはいられません。それはモノにしても同じこと。それでも人は変わらないものに憧れや郷愁を抱いてしまいます。このことに関しては西澤保彦さんがあとがきで秀逸な解説をされていますので、ここであえて書いても物まねに過ぎません。

  • 最後の夏休み

母親に生活能力が無いため親戚をたらい回しにされ、保護施設で少年自体を過ごした主人公。彼に唯一優しくしてくれたのは同級生の女の子。自宅に招待された彼が出会ったのは・・・。子供は上下関係に敏感で、下の者には容赦がありません。この話ではあえてそうしたのでしょうが、施設内の虐待やいじめの描写は比較的軽いものです。だからといって平気なわけはありません。自分自身に変化が大きい少年(少女)時代は、周囲は安定したものを欲するのではないでしょうか。大人になると鈍感になり、どうしても普段そういうことを忘れがちです。もちろん、自分が通ってきた道なので理解できないわけは無いのですが。よくわからない感想になってきました。これも、詳しくは解説を読んでいただければと。